
85歳以上の利用者の増加、生産年齢人口の大幅な減少、医療人材の偏在…。変化は大きく、速く進みます。介護施設は今後、これまでの延長線上では立ち行かなくなるでしょう。【青柳直樹】
「今の体制でなんとかなる」「変化はまだ先」という発想は捨て、前提から見直すべきタイミングが来ています。鍵は自前主義から“持続主義”への転換。仕組みを整え、仕組みを使い、仕組みを変える当事者になることです。
今回は、介護施設の事業者・管理者・職員の皆さまに向けて、具体的に取り組むべきポイントを提案します。
青柳直樹|医師。2017年にドクターメイト株式会社を創設。日本ケアテック協会の理事も務める。介護施設が直面する医療課題に対応すべく、オンラインの医療相談や夜間のオンコール代行などのサービスを展開中。介護職の負担を減らすこと、利用者の不要な重症化、入院を減らすことなどに注力している。
◆「日頃から顔の見える連携」へ
まずは医療ニーズに対応できる体制の強化です。これは今後、どうしても避けて通れません。
また、利用者の救急搬送をできるだけ抑えていくことは、地域の医療・介護インフラを守るうえで非常に意義の大きなことです。「協力医療機関連携加算」の創設など、制度的な後押しは整い始めています。ただ、「困ったときだけの連絡」から「日頃からの顔の見える連携」へ発想を切り替えなければ、十分な実効性は現れません。
こうした連携は、平時からの関係づくりを業務として組み込むことが出発点です。毎月の情報共有や急変時プロトコルの年次点検を“行事”ではなく定例運用にするほか、入院の適否や看取り、家族説明の基準を共通様式でそろえ、迷いや齟齬を減らすことが重要です。あわせて、日中の受診を増やす設計へと切り替えることで、夜間の救急依存を抑えられるでしょう。
協力医療機関と連携体制を築く際は、義務化に追われて先を急ぐと不要な入院が増える逆効果にもなりえます。施設側の期待(施設内完結、看取り)と医療側の期待(入院・収益構造)のズレを可視化し、交渉の論点を明文化するとよいでしょう。
◆ 重要な見える化と役割分担
次に重要なのは、生産性の向上です。
働き手が減る中でサービスの質を守るには、まず業務の「見える化」が欠かせません。誰が、いつ、何をしているのかを一度整理し、負担の大きい業務を特定して改善を進めて下さい。
テクノロジーの導入は、その後でも遅くありません。課題が見えれば、どこに外部の力を活用し、どこを効率化すべきかがはっきりします。順序を誤ると、業務が増えてしまいかねません。
また、医療人材の偏在が深刻化する中では、オンラインの仕組みを前向きに使っていくことが重要です。「リアルでなければいけない」という思い込みを手放し、まずは試してみることが大切です。オンライン診療や電子処方箋などを実際に使ってみれば、現場で役立つ場面が見えてきます。
ICT機器を使い慣れている職員から小さく始め、少しずつ広げていくのが現実的でしょう。今後は、テクノロジーにうまく対応できる介護職員が、新たなキャリアとして評価される時代になります。
そして何より、すべて自前で抱え込む発想を改める必要があります。これからは、短期の頑張りではなく長く続けられる仕組みづくりが欠かせません。医療・介護双方とも限られた人員で支えていく時代だからこそ、自施設だけで完結しようとするのではなく、地域や外部サービスとうまく役割を分担し、互いに補完し合う態勢が求められます。
◆ 当事者になる、ということ
医療や介護の制度は元々、人口が増え続ける時代の前提で設計されてきました。しかし、現実は大きく変わっています。
だからこそ、変化を受け身で待つのではなく、自ら積極的に仕組みを活用し、必要なら変えていく側に回ることが大切です。仕組みを変える当事者になること。これが「持続主義」への転換の核心だと考えています。
地域の貴重な資源を活かし、守り、限られた人材で高齢者を支え続けていく。そのための土台をどうつくるかが、これからの介護施設の大きなテーマです。
小さな一歩からで構いません。日常の業務を見直し、医療との距離を縮め、オンラインも活かしていく。その積み重ねが、未来の介護を支える力になるはずです。
大きな変化は既に始まっています。皆さまと共に、持続可能な介護の仕組みを築いていければと思います。