「現役世代の負担」とは何か?

イメージ画像日本経済団体連合会(経団連)が、「今後の医療・介護制度改革に向けて」と題した提言を公表しました。その中心には、「今後の高齢化や現役世代の減少のさらなる進行」により、「高齢者の医療・介護給付費の増加は現役世代の保険料の伸びにもつながる(可処分所得の足かせになる)」という問題意識があります。

今提言は、来年の介護保険部会も左右する?

介護分野での負担や給付の見直しについては、(1)2割負担の対象者の拡大、(2)ケアマネジメントへの利用者負担の導入、(3)要介護1・2の生活援助サービスの地域支援事業への移行を提言しています。いずれも、かねてから財務省が提言している内容と重なります。

ご存じのとおり、2020年の介護保険制度見直しでは、いずれも見送りとなりました。ただし、今年5月に出された「財政健全化に向けた建議」(財務省・財政制度等審議会)では、特に上記の(1)、(2)について再び必要性を掲げています。2022年早々にもスタートが予想される介護保険部会等の議論でも、主要な改革テーマとなるのは間違いないでしょう。

財務省も経団連も、団塊世代が全員75歳以上となる2025年に焦点を当てています。次の介護保険の改革年度は、その直近となる2024年度(第9期介護保険事業計画のスタート年度)となることから、改革に向けたプレッシャーは前回の比ではないと思われます。

利用者負担増が「可処分所得」に与える影響

いずれにしても、このタイミングで最大の経済団体からの提言が出てきたということは、財務省にとっても「現役世代の保険料負担の増大を防ぐ」という名分をより強く押し出す環境が整うことになります。

ただし、経済団体の立場として「問題はそれだけなのか」を考える必要はあるでしょう。たとえば、今回の提言に関して、以下のような矛盾を感じる人もいるはずです。

それは、たとえば「親の介護を担う現役世代」にとっては、(1)、(2)のような介護サービス利用時の負担増は、やはり「可処分所得の減少」につながる可能性がある点です。

直接的に負担増となるのは介護サービスを利用する本人(高齢者)であって、現役世代ではない──という考え方もあるでしょう。しかし、60歳以上のうち預貯金500万円未満の世帯が2割以上に達している状況で、年金収入に頼る高齢者の負担増は、高齢の親を支える現役世代にも影響します。

次期改革で現役世代の家計はどうなるか?

現状において、現役世代の賃金はなかなか伸びず、非正規社員の割合も依然として高い中で雇用環境も安定していません。そうした点を考慮すれば、仮に介護サービスの利用料が上がることで、現役世代の家計はどうなっていくのか。経済団体であれば、その点での試算を同時に行なう必要があるはずです。

また、利用者負担が上がれば、要介護者世帯の家計状況によって、一定のサービス利用控えが発生する可能性もあります。入口となるケアマネジメントへの利用者負担導入に至っては、介護保険そのものの利用を控えるというリスクも考慮しなければなりません。

そこで懸念されるのは、「現役世代」を含めた家族の介護負担の増加です。それによって「現役世代」の介護離職が増加すれば、それは経済界にとっても貴重な労働力を失うことにもつながりかねません。この点についての予測や、そうなった場合の対策などを、経済界として同時に打ち出すことは不可欠です。

懸念される被雇用者の介護休業等利用の低さ

そもそも経済界が、「現役世代」の介護負担にどれだけ関心を持っているかという点にも疑問符がつきます。ご存じのとおり、総務省の就業構造基本調査では、5年ごとに「家族の介護・看護のために離職した人数」を集計しています。それによれば、最新の2017年調査では約9.9万人。その前2012年の約10.1万人からほとんど変わっていません。

何よりも注意したいのは。「家族等の介護をしている被雇用者」のうち、「介護休業等制度の利用あり」の割合は約8.6%と1割に満たないことです。非正規の雇用の場合は、さらに7%台と低くなります(「就業構造基本調査」の統計表をもとに筆者が算出)。

もちろん、次期調査(予定)となる2022年までの間には、少しは改善されている可能性はあるでしょう。しかし、2017年時点での低迷の度合いが著しいゆえに、経済界としての思い切った取組みがなされなければ、状況改善にも限界があるのは明らかです。

年明けのさらなる改革案にどう向き合うか?

今回の経団連の提言は、あくまで介護保険財政のあり方が主題です。それゆえ、介護休業制度等の活用推進にかかる取組みなどに一切触れていないのは仕方ないかもしれません。

しかし、利用者負担にかかる提言に踏み込むのなら、それが「現役世代の被雇用者」にどのような影響がおよぶのかという観点から、介護休業制度等の活用状況などとの関連に言及することは必要だったでしょう。それがないゆえに、「現役世代の被雇用者」のためをうたいつつ、結局は「(保険料負担を折半する)経営側」のための提言にとどまっているという印象が先に立ってしまいます。

来年の介護保険部会に向けて、(骨太の方針等をかかげる)内閣府、財務省、そして経済界と、今回のような提言がさらに増えていくことが予想されます。そこにある改革案が、「結局は誰のためのものなのか」という視点をしっかり定めておきたいものです。

>>参考資料はこちら
統計局ホームページ/平成29年就業構造基本調査の結果 (stat.go.jp)

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。