医療と介護の訪問看護の位置づけ

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2022年度の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会(中医協)での議論が続いています。在宅療養で大きなカギになると言えば、やはり訪問看護です。介護保険との兼ね合いも論点となりがちな資源ですが、今回の「医療保険側の見直し」が2024年度の介護保険にどのような影響を与えるでしょうか。

利用者の伸びが高まったのは2013年前後

近年、訪問看護の利用者数および事業所数は急速に伸びています。中医協への提出データでは、2001年と2019年の利用者数の比較で、介護保険が2.9倍、医療保険が5.9倍となっています。ただし比較の時間軸が長いので、もう少し直近の状況に焦点をあてます。

実際の推移を見ると、利用者数・事業所数ともに伸びが大きくなったのが、2013年前後です。人口推移との関係でいえば、団塊世代が65歳以上の高齢期に差しかかり、高齢者人口が初めて3000万人台となった年と重なります。健康リスクは単純に年齢で区切れませんが、高齢者数が底上げされたことによる影響は多少なりともはあるでしょう。

2014年度診療報酬改定を受けた在宅ニーズ

これに制度的な背景が加わります。2014年度の診療報酬改定では、訪問介護の対象・回数の緩和とともに、複数名訪問や専門性の高い看護師による訪問の評価が引き上げられました。こうした改定もあり、事業所数の増加がこのあたりから大きくなりました。

もう1つの重要な制度環境としては、やはり2014年度の診療報酬改定でしょう。ここで、病床の機能分化をともなう「在宅復帰の促進策」が打ち出されました。

たとえば、病棟評価に自宅などへの退院割合や在宅復帰率が導入されています。これにより「平均在院日数」の減少が一気に進んだわけではありませんが(それ以前から右肩下がりは一定ペースで続いています)、それまで「在宅復帰は難しい」とされていた状態の患者についても、退院の可能性を探るといった流れは強まったといえます。

これにより、在宅復帰に際しての訪問診療・看護のニーズは当然高まります。訪問看護のニーズ拡大をめぐっては、「送り出し側」の制度上の事情も大きく影響しているわけです。

介護保険と医療保険の各訪問看護の関係

ちなみに、この直後の2015年度の介護報酬改定では、(介護保険の)訪問看護に「看護体制強化加算」が設けられました。特別管理加算やターミナルケア加算などの算定実績が一定以上ある事業所を評価したものです。

訪問看護については、医療保険で提供されるものと介護保険によるものがありますが、両者には一定の線引きがなされています。たとえば、利用者が65歳以上の場合、要介護・要支援認定を受けていれば、原則として介護保険による訪問看護が優先されます。

ただし、厚労省が定める疾病等(末期がん含む)に該当し、医師による特別訪問看護指示書が発行されれば、医療保険による訪問看護を受けることも可能です。つまり、在宅における重度療養のニーズが高まってくる中では、医療保険による訪問看護の提供ケースのすそ野も広がることが考えられるわけです。

医療側の重度療養対応への評価、拡大の流れ

ここで、今回の中医協の議論を振り返ってみましょう。医療ニーズの高まりを受けて、専門・認定看護師など専門性の高い看護師による訪問時の評価がポイントになっています。在宅での重度療養のケースがさらに増えることが想定される中では、こうした部分での評価を手厚くする流れは必然といえます。

気になるのは、診療報酬側の見直しを受けて、介護保険の訪問看護がどうなっていくのかという点です。在宅での重度療養ニーズの高まりへの対応という流れを受けるとすれば、2015年度の介護報酬改定のように、重度者対応への実績をさらに評価するというテーマが前に出てくることになるでしょう。

注意したいのは、過去の介護報酬改定を見ても、診療報酬改定と比べて「重点化」というやり方が強められがちな点です。つまり、どこかで評価を手厚くした場合に、その流れから外れた部分は「適正化」という給付カットが行われる可能性が高いわけです。

介護側のポイント、実は軽度者対応にあり?

実際に2021年度の改定では、「訪問看護の機能強化」というテーマで、一定期間・回数にかかる介護予防訪問介護の減算が強化されました。重度者対応への重点化の一方で、「予防(軽度者)」への対応を「適正化」していく流れがはっきりしたことになります。

しかし、本当にそれでいいのでしょうか。近年の医療では、生活習慣病の増加にともなう合併症などへの対応として「早期発見・早期介入」という考え方が強まっています。軽度の段階からしっかりと療養管理を行なうことが、病状悪化を防いで急性期入院の増加を抑えることにつながるというわけです。

こうした考え方に沿うならば、医療保険での訪問看護は「重度者への対応強化」を目指すとして、介護保険側はむしろ「軽度からの重度化防止」に重点を置くべきではないでしょうか。こちらの方が、医療保険と介護保険の住み分けや位置づけがはっきりします。

2022年度の診療報酬改定を受けて、2024年度の介護報酬改定では、何を目指していけばいいのか。医療に対しての介護保険なりの役割がある点を見すえたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。