年明けから、再び新型コロナウイルスの感染が急拡大しています。年末年始での宴席や移動等の増加に加え、感染力の強いオミクロン株の割合上昇等が要因と指摘されています。一部地域では、医療機関のみならず介護現場のサービス提供にも影響が及びつつあります。
気になる3回目のワクチン接種について
こうした状況下、介護現場にとって気になることの一つが3回目のワクチン接種でしょう。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)ワクチンの3回目接種については、昨年末の国・自治体による各種通知のとおり、当初の「初回接種完了後8カ月以上」という原則を前倒して行なわれることになりました。
特に、医療従事者や高齢者施設等(通所系サービス含む)の入居者(利用者)・従事者については、昨年12月24日の厚労省通知により、6か月以上の間隔での接種が行われる予定です。一部自治体が示したスケジュールによれば、高齢者施設入居者等については1月中に約8割、2月末までにおおむね接種を完了することが目指されています。
多くの介護現場としては、入居者・利用者および従事者の接種に向けたオペレーションなどに、今から配慮しなければなりません。すでに出されている接種時の留意事項等の通知をもう一度確認しておきましょう。
オミクロン株の高い感染力がもたらすもの
問題は、新変異株となるオミクロン株による感染が増え続ける中、これまで以上に注意すべき点もあることです。高齢者施設等の集団感染(クラスター)については、昨年12月20~26日の時点で3件にとどまっていました。しかし、年明けからの感染急拡大にともない、今週明けにも発表される数字が急増を示す可能性も濃厚となっています。
オミクロン株については、昨年中盤に中心となったデルタ株と比較して「重症化しにくい」と言われています。一方で、感染力は極めて強く、デルタ株と比較して3~4倍という数字も指摘されています。イギリスの例では、家庭内の二次感染率もデルタ株の2倍にのぼるというデータも示されています(NIID国立感染症研究所のHPより)。
これだけ感染力が強いと、仮にオミクロン株が主流となれば、高齢者施設など集住状態におけるクラスターの発生率がこれまでと比較にならないほど高まりかねません。当然、休業せざるを得ない職員数も増えるでしょう。
地域でのサービス停止急増も想定される中で
厄介なのは、現時点でオミクロン株の感染に際して「無症状者」が多いことです。そのため、仮に利用者・職員の中で症状を呈する人が出て、その時点で集中的な検査を行なったとして、すでに施設・事業所内の感染が大きく広がっているという状況も想定されます。
その結果、業務の絞り込みや徹底したゾーニング、法人内・法人間での人材確保、あるいは都道府県による職員派遣なども追いつかなくなる恐れがあります。濃厚接触の従事者の就業要件等の緩和などを進めても、介護サービスの完全停止などが、地域によって今まで以上に増える可能性もあるわけです。
もちろん、オミクロン株については、まだまだ不明な点が数多くあります。「重症者が少ない」とは言っても感染が拡大する中でどの程度の割合になるのか、これまで重症化しやすいとされた要介護高齢者の場合はどうなのか──これらの知見が確立されていけば、業務継続にかかる各種要件の見直し(緩和)なども、今後は行われる可能性もあるでしょう。
とはいえ現段階では、最悪のケース(サービス停止など)を想定した受け皿(人員確保含む)をどうするかという点について、地域全体そして国全体で根本から考え直す時期に来ているのかもしれません。
たとえば、職員派遣等によっても人員確保が間に合わなくなった場合、軽度者に提供されているサービスを一時的に重度者に振り分けるといった事態も生じないとは言えません。
感染拡大がもたらす日常支援への弊害に注意
もちろん、一時的と言えども軽度者へのサービスが削減・停止されるとなれば、対象となる利用者には深刻な影響を与えます。それが居宅の利用者であれば、ケアマネジメントの負担も計り知れないほど大きくなります。
当然、そこには思い切った臨時予算の投入も必要となるでしょう。行政や包括、ケアマネ等がタッグを組んで頻回のモニタリング訪問を行ない、そのための手厚い人件費をねん出することも欠かせなくなります。
いずれにしても、「未曾有の感染拡大」のみならず、それによって「(必要な介護を受けられず)日常生活の継続が困難になる人の増加」に早期からいかに着目するかが重要です。「その時」になってから対応を考えるというタイムスケジュールでは、今回の第6波を乗り切るのは困難という認識が求められます。
すでに新型コロナ禍の目から、地域密着型通所介護など小規模事業者の減少が目立っていました。考えてみれば、こうした地域の中の小さな事業者等の存在も、緊急時における地域全体での支援の受け皿という観点では大切な役割を担っている──そのことが今後は改めて浮き彫りになるかもしれません。
とかく「非効率」と指摘される部分の切り捨ても進みがちな中、それが緊急時のセーフティネットを貧弱化させてきたのではないか。こうした検証も改めて必要になりそうです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。