財務省によるケアマネ改革案は 制度の理念や現場の実情に沿っているか?(1)

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財務省の財政制度分科会が、4月13日の議論で、ケアマネジメントについての改革案を2つ打ち出しています。1つは、ケアマネジメントへの利用者負担導入。もう1つが、福祉用具貸与のみのケースについての居宅介護支援の報酬の見直しです。今回は、前者の「利用者負担の導入」を中心に取り上げます。

1年越しの改革案、今回は実現を強く要求

この2つの改革案については、1年前の同審議会でも示されています。1年前と今回の違いと言えば、「第9期介護保険事業計画期間(2024年度~)までに」という具体的な改革スケジュールが示されたこと。さらに、「(ケアマネジメントへの)利用者負担を導入することは当然」といった、実現を迫る強い表現に踏み込んだことがあげられます。

ちなみに、前者の「ケアマネジメントへの利用者負担導入」を実現するとなれば、介護保険法そのものの見直しが必要です。法改正にあたっては、厚労省の介護保険部会の審議を経ることが必要ですが、その審議は今年中盤からのスタートが見込まれます。

流れとしては、2022年末の制度見直しの意見取りまとめ→2023年の法改正→同年中盤からの介護給付費分科会→同年中に改定にかかる諮問・答申→2024年度の報酬・基準改定といったスケジュールが進行します。先の財務省側の改革案は、こうしたスケジュールをにらんだうえで、今後の厚労省側で進む議論をけん制したことになります。

「サービスの定着」と「利用者負担」の関係

以上の流れを前提としつつ、2つの改革案が道理の通るものかどうかを考えます。

まず、ケアマネジメントへの利用者負担導入ですが、財務省側が提示する根拠は3つあります。1つは、「サービスが定着している」こと。2つめは、「他のサービスでは利用者負担がある」という点とのバランスをとること。3つめは、「利用者が自己負担を通じてケアプランに関心を持つしくみ」とすることで、ケアマネの「サービスのチェックと質の向上にも資する」という点をあげています。

第1の根拠ですが、これは、「利用者負担導入は、サービスの利用控えにつながる」という声を意識したものでしょう。

しかし、「サービスの定着」は、「ケアマネジメントへの利用者負担がなかったこと」が大きな要因とも考えられます。仮に「利用者負担を導入しても、利用控えにはつながらないほどサービスが定着している」と言うなら、その根拠となるデータが必要です。つまり、「サービスの定着」という現象だけでは、利用者負担導入の理由にはならないわけです。

居宅介護支援と他サービスは同列にできる?

第2の根拠については、ケアマネジメントを他サービスと同列に置くことができるのかが問われます。たとえば、基準上での「利用者のサービスの選択権」について考えます。

他サービスでは「利用者の選択に資するための重要事項説明書の交付」等を定めています。「選択に資する」わけですから、前提として利用者の選択権(介護保険法第2条の3)が保障されていなければなりません。その前提となる「選択権」の理念を担うのが、「利用者の選択」に基づいてサービス調整を行なうことが法律上で明記された居宅介護支援です。

つまり、ケアマネジメントは利用者に包括的・継続的に寄り添いつつ、介護保険法上の基本的な権利を保障する土台と位置づけられます。これを他サービスと同列に扱うとなれば、制度設計を根本から揺るがしかねません。

財務省の使命は、国民が保険料を負担することへの「納得」を得ることにあるはず。言い換えれば、「費用(国民負担)対(納得できる)効果」をいかに整えるかが軸となります。上記のように制度設計を安易に揺るがせば、財政の健全化にも逆行する懸念があります。

ケアマネジメントの質の向上を図る前提とは

第3の根拠は、「自己負担」が「ケアプランへの関心」を高め、「ケアマネジメントの質の向上に資する」という点です。ただし、この理屈が機能するには、「ケアマネジメントの質の向上とは何か」という点について、介護保険法上の理念と利用者の関心の間の整合性がしっかり取れていることが必要です。

そもそも、利用者やその家族の多くは、介護保険を利用する時点で複雑な「困りごと」を抱えています。その課題をケアマネと一緒に整理するという過程がきちんと機能しなければ、「何をもって質の向上とするのか」を制度の理念に沿って受け止め、ケアマネとの間で適切な合意形成を図ることは困難でしょう。

つまり、利用者側が「混乱している」あるいは「受容に至っていない」という入口段階から、自立支援や尊厳保持などへの理解を求め、その「対価」としての利用者負担を納得してもらうことは、ケアマネジメント上のハードルが極めて高くなるわけです。

財務省側は、ケアマネ側の公正中立を問題にしていますが、上記のような「ハードル」が十分に取り除かれないまま、公正中立を担保するという考え方には無理があります。たとえば、自法人の都合でサービス調整が推し進められたとしても、混乱期の利用者の「言い分」がプランに反映されてさえいれば、利用者はそれでOKとなる可能性もあります。そうなると、倫理観の高いケアマネほど板挟みになりやすい懸念も生じるわけです。

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こうして見ると、利用者負担の導入は、ケアマネジメントが直面している現実と乖離する部分が多いと言わざるを得ません。その点を軽視して「当然」という強い表現を用いることは、制度への現場不信を強める危険があります。次回は、この点をさらに掘り下げつつ、もう1つの改革案(福祉用具貸与のみのケースでの報酬見直し)を取り上げます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。