「仕事と介護の両立支援」をめぐって ケアマネの法定研修等はどうなる?

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2021年度に自治体のモデル事業として、「仕事と介護の両立に関する研修カリキュラム」にもとづくケアマネ向けの研修が行われました。この事業結果をもとに、今後は法定研修のカリキュラムへの組み込みも予定されています。今回の事業を通じ、ケアマネとして注意したいポイントはどこにあるでしょうか。

介護休業・休暇にかかるケアマネの認識は?

今回のモデル事業による研修が行われたのは、14の都府県です。実際に研修や講師派遣を受けた「受講者の声」の中に、以下のようなものが見られます。たとえば、「(介護休業等の)両立支援制度は、介護のために休暇を取ると理解していたので、準備期間(他の声では、『今後の介護に対するプランニングを行なうための期間』)という認識を得て目からウロコだった」というものです。

現場のケアマネの多くがこうした気づきを得られるとすれば、一つの大きな成果でしょう。ただし、逆に言えば、これまでの両立支援制度にかかる介護現場の認識が十分ではなかったことを物語るエピソードともいえます。

そもそも、介護休業は対象家族1人につき、通算93日の範囲内で合計3回まで。介護休暇は年5日まで(対象家族が2人以上であれば、年10日まで。時間単位の取得も可能)となっています。短時間勤務などの措置はあるとしても、これだけで長期化する介護を家族でまかなうことは、普通に考えれば困難です。

ケアマネに責務を負わせるだけで済むのか?

となれば、介護休業および介護休暇は、介護保険にかかる各種申請やケアマネジャーによるアセスメントへの同席、サ担会議への出席、さらにはサービス開始時や住宅改修等への立ち合いといった「家族の介護に向けた道筋」を整えることに活用するというのが、本来的な位置づけということになります。

上記のような活用法について、インテーク時点から適格なアドバイスがないと、たとえば上限のある介護休業を無為に使ってしまうということにもなりかねません。こうした初期おけるマネジメントの不在が、介護休業の取得率などが一向に上がらないことの一つの大きな要因だったとも言えるでしょう。

とはいえ、こうした状況に対し、ケアマネ等への責務の転嫁で済ませるのは筋違いかもしれません。もちろん、現行の法定研修でも家族支援や育児・介護休業法を学ぶ機会はあります。しかし、ケアマネジメントの中で、それらをどう位置づけていくかについて、具体的な手法は確立されてこなかったからです。

介護保険法で明確になっていない「家族支援」

そもそも、ケアマネ等の職業倫理を根本で定めている介護保険法では、「要介護者の家族の支援」を明確にはうたっていません。あるのは「家族の希望を勘案する」という点で、それは「(要介護者の)サービスの適切な利用等」のために必要だという視点だけです。

確かに、居宅介護支援の基準では、「利用者の心身または家族の状況等」に応じたサービスの利用調整などを方針として定めています。しかし、これも法令上の文言としてはあいまいであり、「家族の介護負担の軽減」、さらに言えば「仕事と介護の両立」を直接的に支援するといった明確な定めはありません。

つまり、ケアマネには、もともと明確な家族支援のあり方が定められておらず、それは今もなお続いている状況と言えます。そうした中で、ケアマネジメントにおいて「仕事と介護の両立支援」も基本的なスキルとして求めていく──という流れができたとしても、「それは本当にケアマネジメント業務の一環なのか」という揺らぎは収まらないでしょう。

本来なら、「介護者支援」に重点を置いた基本法を定め、そこに「家族介護者の権利」と「それを支えるための社会機能」を明確に位置づけることが必要です。この土台があってこそ、ケアマネの役割がはっきりします。役割がはっきりすれば、「何をするべきか」という実務への評価が明らかになります。ひいては、新たな実務にかかるケアマネ報酬への反映も制度上で保障されることになるでしょう。

「介護者支援」を軸とした法律が必要に

介護離職者ゼロ等の目標に向けて、足りなかったものが上記のような土台です。その土台なしに、介護保険法にもとづいて実務をこなすケアマネの「法定」の研修に手を入れ、それを根付かせるのは難しいかもしれません。

現実的な話をするならば、法定研修が改編されるとなれば、2024年度の基準改定に「仕事と介護の両立支援」にかかる項目も要されることになります。そうなれば、省令改正の前に、「介護者支援」にかかる何らかの法律を定めることが欠かせないでしょう。

ただし、そうした動きがまったくないわけでありません。昨今、政府は「子ども」への支援に施策を重点化しつつあります。そうした中で、「ヤングケアラー」という課題にスポットが当たり始めました。ヤングケアラーの中には家族介護者も含まれる点を考えれば、ここから「介護者支援」に重点を置いた基本法の整備が進む可能性もあります。

いずれにしても、「仕事と介護の両立支援」に本腰を入れるには、家族の働き方や職場の事情なども視野に入れなければなりません。ケアマネ実務に手を加えるだけでは、到底足りないテーマといえます。これからの介護保険部会等での法制定・法改正に向けた動きに注意することはもちろん、職能団体からの積極的なアピールも求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。