2021年度報酬改定の影響調査で浮かぶ 次期改定に向けたケアマネ改革の2大焦点

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2021年度の厚労省・老人保健健康増進等事業として、居宅介護支援等にかかる2021年度の「介護報酬改定の影響に関する調査研究」(実施主体:三菱総合研究所)の結果が公表されました。ケアマネ実務に関してさまざまな見直しが行われた2021年度改定ですが、1年目の出足はどうなっているのでしょうか。

依然としてケアマネ不足は深刻という中で

ケアマネにかかる2021年度改定といえば、逓減制の緩和、特定事業所加算への新区分、通院時情報連携加算の誕生、看取り期における相談支援等への評価、介護予防支援にかかる委託連携加算など、多岐にわたっています。ここに、全サービス共通となる感染症対策やBCP策定等の取組み強化も加わり、実務全般で大きな変化が生じることとなりました。

そうした中での今調査ですが、結果を確認する前に確認しておきたいのが、1事業所あたりのケアマネ人数です。今調査によれば、1事業所あたりの常勤換算のケアマネ人数は平均で3.1人。2020年の介護給付費分科会で示された2019年度のデータでは、2.7人(非常勤含む)だったので、0.4人増えています。

もっとも両調査は母体が異なるなど前提は揃っておらず、急速に進んだケアマネ不足が「落ち着いた」とは言い切れないでしょう。実際、標準偏差は2.9と3を割っています。どちらかといえば、事業所間のケアマネ数の格差が固定化されている状況が浮かびます。

この点を考えると、「今後もケアマネ数が劇的には伸びない」ことを前提に、小規模や資力に乏しい事業所ほど運営方針も慎重にならざるを得ず、しかもその格差が開きつつあるという仮説を頭に入れなければなりません。

ICT対応は可能でも逓減制緩和の意向は希薄

そのうえで、逓減制の緩和の適用状況を見てみましょう。「摘要緩和なし」が88.9%で、そのうち「摘要緩和の届出をしていない」が90.4%。つまり、当面の「摘要緩和」も想定していないという事業所は、全体の8割にのぼることになります。(88.9×90.4%=80.3%)

ちなみに、緩和要件を満たすことになる「ケアマネジメントプロセスにおける携帯情報端末の利用」は、全体で45.1%にのぼります。なので、上記の計算を単純に適用すると、「要件は満たしているが、適用緩和を想定していない」という事業所が36%程度あることになります。(45.1×80%=36.1%)

全事業所の3分の1は、ICT対応は済ましているものの、適用緩和は視野に入れていない──これは、今雇用しているケアマネに負担がおよぶ要素は、できる限り抑えておきたいという方針の現れといえそうです。

なお、「逓減制の適用緩和にともない、担当件数が増えたこと」による全体の業務時間ですが、「増えた」という事業所の割合は36.9%にのぼります。一方、「減った」は1.0%、「変化なし」は29.1%。要件となるICT活用や事務職員の配置が「ケアマネの業務時間減」につながっておらず、事業所が二の足を踏む背景の一つであることは間違いなさそうです。

小規模支援のための新加算、その効果は?

小規模事業所等が「摘要に躊躇する」という点でもう1つ気になるのが、特定事業所加算です。2021年度改定では、特定事業所加算について大きく3つの見直しが行われました。

第1に、多様な主体等が提供する生活支援のサービスが包括的に提供されるようなケアプランを作成するなど、新たな要件が加わったこと。第2に、事業所間の連携による対応を可能とするなど、一部要件を緩和した新区分(加算A)が設けられたこと。第3に、加算Ⅳが「特定事業所医療介護連携加算」と名称変更されたことです。

注目したいのは、前者2つによる改定後の状況です。今調査による2021年3月時点の算定状況を見ると、Ⅰで2.6%、Ⅱで23.4%、Ⅲで13.7%、新設されたAで1.2%となっています。やはり調査母体が異なるので一概に比較はできませんが、改定前(2019年4月時点)のデータからは、Ⅰ~Ⅲの算定率がいずれも大幅に上昇しています。
要件ハードルが上がったにもかかわらず算定率が上昇したわけで、この部分に限れば算定に向けた体制確保等に、「躊躇」どころか「積極的」な事業所が増えたことになります。

ただし、常勤換算のケアマネ数が3人未満という事業所は、依然として算定率は低迷し、小規模事業所の算定率を高めるために新設された区分Aの算定も1割に達していません。3人未満の(とはいえ、今調査の母数としては5割近くに達している)事業所としては、今改定による増収は限られているわけです。

結局、ケアマネ数の底上げが前提となるが…

ここまでの「逓減制の緩和」や「特定事業所加算の見直し」を見て分かるとおり、改革に向けて踏み込みが困難となっているごく小規模な事業所が一定数存在することは明らかです。問題は、「ケアマネ数の標準偏差」と照らした場合、そうした「踏み込みが困難」な事業所は決して特別な存在ではないことです。

となれば、今後の改革の方向性としては、ケアマネ総数を底上げするための処遇改善に力を注ぐことが欠かせません。ただし、国としてはむしろ、「小規模事業所の協同化」をうながす方向に力を入れる可能性が高いのかもしれません(財務省案にも沿う方向性です)。

ケアマネに重点化した処遇改善か、小規模事業所の協同化か。あるいは、両者を並立させた改革案が出てくるのか。これからのケアマネ改革の議論で大きな焦点となりそうです。

【関連リンク】
居宅介護支援の逓減制緩和、適用は9.1%に留まる 厚労省調査 「ICT体制が整わない」などが理由|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。