着々と進む、ケアプランへのAI活用 2024年度改定でどこまで制度化される?

イメージ画像

ケアマネジメントにおけるAI活用の研究がどこまで進んでいるのか、気になるケアマネは多いでしょう。5月の介護保険部会では、厚労省の「ホワイトボックス型AIによるケアプラン作成支援」に向けた工程表なども改めて示されています。2024年度の介護報酬・基準改定にも反映されるのでしょうか。

そもそも「ホワイトボックス型AI」とは何?

まず、「ホワイトボックス型AI」とは何かを確認します。「ホワイトボックス」の対義語は「ブラックボックス」。現在活用されているAIの多くは「ブラックボックス型」で、要するに「AIがなぜそうした分析結果を導き出したか」の根拠が分からないというものです。

AIによるケアプラン作成を例にとれば、AIがプラン原案を示しても、ケアマネには「なぜそうなったか」という根拠が不明ということになります。これでは、ケアマネ自身の知見をもって、AI案にどのように手を加えるべきか判断できません。利用者に「なぜこういうプランになったか」を示すことも困難です。

これに対し、「ホワイトボックス型」というのは、なぜそうした結論が導き出されたのかという「根拠(エビデンス)」をきちんと示せるAIを指します。ただし、この「根拠」がケアマネジメント本来の課題分析等からかけ離れていれば、ケアマネおよび利用者のAIへの信頼を確立することができません。

つまり、ケアマネや利用者の意思決定を支援できるしくみとするには、AIが結論を導くための手段・ルール(アルゴリズムといいます)の精度を今まで以上に向上させることが前提となるわけです。ケアマネとAIの協働という観点で言えば、豊富な経験・知識を有するケアマネの思考パターンをAIがしっかり学習していくことも不可欠です。

ケアマネの「思考の流れ」をAIが学習する

これらの課題解決に向けて進められているのが、厚労省の老人保健健康増進等事業による「ホワイトボックス型AIによるケアプラン作成支援に関する調査研究(国際社会経済研究所がNECとの協働で実施)」です。2020~2022年度にわたって継続されているもので、現在はフェーズ2と位置づけられます。

フェーズ1(2019年度以前)では、主に疾患別AIモデルが構築されてきました。ただし、同じ疾患の利用者でも認知や社会生活の状況、年齢による運動機能の低下スピードなどによって自立や改善の度合いは変わってきます。そこで、疾患以外の観点での分析モデルをAIに学習させることで、先に述べたアルゴリズムの精度向上が図られました。

AIによる学習に際しては、こうしたさまざまなモデル(複線的モデル)に沿ってケアマネがどのように「思考」していくか(思考フロー)をきちんと反映させることが必要です。ケアマネ自身は、自分の思考の流れを逐一意識してはいないでしょうが、実は一定のパターンがあります。この思考の流れをAIに学習させるというわけです。

一定スキルのケアマネの判断をAIが実現!?

ただし、ケアマネの思考パターンは知識の度合いや経験値などによって異なります。こうした中では、AIが学習するデータの標準化を図ることが求められます。そこで、厚労省が策定した「適切なケアマネジメント手法」の項目を学んだケアマネ(6つの自治体や地域の職能団体が協力)によるケアプラン等を収集するなどの取組みが行われました。

また、利用者の自立支援や尊厳保持に資する思考パターンをAIに学習させるには、さまざまな視点からの検討も必要です。そのために、保有資格の異なるケアマネで構成されるワーキンググループを立ち上げています。このワーキンググループにおいて、どのような着眼点でアセスメント情報を絞り込むか、ケアプランの記述に落とし込んでいくかという「思考の流れ」の見える化が図られました。

これらの取組みにより、一定の専門性を有するケアマネの判断に近い基準で、AIが利用者の状況を詳細にグループ分けしていくことが可能になったとしています。

次改定で「AI活用加算」のようなしくみも!?

しかしながら、現場で実用可能なレベルまでのアルゴリズムの精度向上となると、最終年度となる2022年度の実証研究を待たなければなりません。また、「ホワイトボックス型」ならではの「根拠」をどのように示すかという点で、ケアマネの気づきをうながすだけのレベルに向けては課題も残ります。

仮に2023年度までに、AI自体が「現場で活用できるレベル」まで進化したとします。問題は、2024年度から現場で一律に活用するうえでの体制づくりが間に合うかどうかです。

考えられるのは、完成したAIでケアプランを作成した場合に、「AI活用加算」などを設けることです。その際にAIへのデータ入力を要件とすれば、要件を満たしていることがオンラインで判定できます。このデータ入力により、AIのアルゴリズムのさらなる精度をさらに向上させることもできます。その点では、LIFEのしくみに近いと言えるでしょう。

いずれにしても、政府が医療・介護のDXを大きな施策目標として掲げる中、厚労省としても2024年度改定において、何らかの制度上の「形」を示さなければなりません。どのあたりからスタートするかという点で、上記のようなしくみが導入される可能性は高いといえます。現場としても、地域によって実施されている「AI活用」のモデル事業等に積極的に参加し、AIを介在させたケアプラン作成の感覚をつかんでおきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。