普及難航のキャリア段位制度 厚労省が狙うのは「LIFEとのデータ連結」?

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介護プロフェッショナルキャリア段位制度(以下、段位制度)といえば、2013年度のレベル認定(アセッサー養成は2012年度)から10年が経過しようとしています。しかし、実施主体である都道府県の施策反映への意欲はなかなか高まりません。厚労省が考える「次の一手」はどのようなものになるでしょうか。

段位制度─都道府県の考える重要度は後退?

今回公表された同段位制度等をめぐる都道府県への調査結果では、「すでに介護職員の人材育成施策として反映している+反映する予定である」は13県にとどまります。

さらに、制度スタートから10年が経過する中、「制度を知らない」という回答が3県あるというのも驚きの結果でしょう。2016年2月時点で「レベル認定者」の誕生は46都道府県にのぼっているので、担当者の異動で「引継ぎされていない」ことも想定されますが、言い換えればそれだけ都道府県内での施策としての重要度は後退しているといえます。

こうした状況は、制度設計を行なう厚労省としても、厳しく受け止めているはずです。今後、制度を浸透させていくうえでは、都道府県のアンケートにもあるように「介護報酬にキャリア制度に特化した項目」の創設も検討対象となってくるかもしれません。

現行でも、各種処遇改善加算の職場環境等要件の具体的内容として「段位制度と人事考課との連動」が定められていたり、キャリアパス要件Ⅲでの「昇給条件」の1つに組み入れることなどが想定されています。しかし、直接的に加算等の「要件」として、段位制度が位置づけられているわけではありません。

段位制度を関連づけた新加算等は誕生するか

今回の調査研究で注目されるのは、2021年度の報酬・基準改定の項目と段位制度の評価項目との関連を示していることです。

2021年度の改定を受け、多くの事業所・施設は、安定的な基準対応や加算取得を図るにはどうすればよいかに頭を悩ませています。その点で、厚労省としては、「段位制度での職員評価を進めること」の重要性を強調していると言えるでしょう。もう少し深読みをするなら、「いつでも報酬・基準に反映させることはできる」という意図も含まれるわけです。

たとえば、一定のレベル認定を受けた職員比率を要件として、関連する加算に上乗せ区分を設けたり、基準から派生する新加算を設けるといった方法も考えられるでしょう。

もっとも、現状における都道府県や現場の熱の低さを考えると、「2024年度からすぐに」というのは無理があるかもしれません。段位制度が「サービスの質向上に確実に効果がある」という現場の認識が高まらないと、「段位制度の普及ありき」の施策にならないかという懸念がどうしても付きまとうからです。

科学的介護のしくみに関連づける道筋も…

今回の調査研究では、現場の課題対応力強化という観点から「段位制度に取り組んでいる」ことによる効果も示されています。

段位制度の取組みの有無でもっとも差が目立つのは、「根拠に基づく介護を行なうことの意識向上」(未実施:25.8%、実施:52.7%)と「介護記録を第三者にわかるように残す意識向上」(未実施:25.8%、実施:46.0%)です。また、「段位制度に取り組んでことによる(職員の行動・意識)変化」として、「利用者のアセスメントを深めるようになった」が35.6%で断トツとなっています。

この「根拠に基づく介護」、「第三者にわかる介護記録(つまり、客観的な評価にもとづく記録)」、「利用者のアセスメントの深化」という3つの要素から思い浮かぶのは、何でしょうか。いずれも、2021年度改定で関連してくるといえば「科学的介護の推進」です。

つまり、(1)科学的根拠に基づく介護ができる、(2)その結果を客観的な指標にもとづいて評価する、(3)それによって利用者のアセスメントが深化する。それによって、利用者の自立支援・重度化防止の効果を高めることができる──これが科学的介護の推進です。
その効果をさらに上げるためのツールとして、「段位制度」を活用するという道筋も見えてくることになります。

段位制度に認定レベルをLIFEデータに?

あくまで仮説ですが、たとえば「現場職員の段位制度によるレベル認定」をデータ化し、それをLIFEに提供する情報の1つにするとします。それにより、段位制度を人材育成の客観的指標としたうえで、利用者の状態像との関連も解析の対象となるわけです。

仮にそうしたしくみを設けるとすれば、段位制度の活用(それによる認定レベルのデータ提供)を、LIFE関連加算に組み込むという展開も見えてきます。もちろん、そのためにはLIFEのシステム改編などが必要になりますが、2027年度改定あたりを目指すとすれば具体的な工程表を編むことも可能でしょう。

やや大胆な予測かもしれません。しかし、今回のような調査研究の報告を厚労省通知として、しかも介護保険部会の議論が加速するタイミングで出してきた…となれば、何らかの制度見直しの意図が垣間見えます。

ちなみに、今回の調査研究では「段位制度を用いた資質向上の記録データ」の分析が行われています。つまり、LIFEとひも付けしたデータ分析も十分可能ということなります。利用者の状態だけでなく、職員の実務レベルもデータ化される時代が来るかもしれない──頭に入れておきたい未来図といえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。