新型コロナウイルス感染症の第7波が、依然として猛威をふるっています。高齢者施設においても、厳しい状況が続きます。クラスター件数の高止まりに加え、地域の病床ひっ迫により、施設内療養は引き続き増加傾向に。利用者のみならず職員の感染状況も目立つ中、介護現場は瀬戸際に追い詰められています。
介護現場の厳しさは、表に出ている数字以上
介護現場の状況については、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)にかかる施設内療養もさることながら、水面下ではさらに深刻な状況が進んでいることを頭に入れなければなりません。たとえば、救急搬送困難ケースも急上昇する中で、「非コロナ」でも救急搬送は困難になっていて、その数は今年2月の第6波の数字とほぼ並んでいます(8月18日アドバイザリーボード資料より)。
一定の療養ニーズを有する高齢者も多い施設では、新型コロナの感染状況にかかわらず、いざという時の救急搬送リスクも常に存在しています。地域の病床ひっ迫状況によって、そうした「いざという時」への救急搬送等が困難になれば、さらなる重症化や場合によっては死亡リスクも高まることになるでしょう。
本来であれば、そうした救急搬送リスクを抑えるための施設内での日々の健康観察や定期の通院の履行が必要です。しかし、感染等による職員不足やかかりつけの医療機関側にクラスターが発生すれば、日々の療養管理が追いつかなくなることも想定されます。いずれにしても、表に出ている「施設内クラスターの発生」や「施設内療養の拡大」にとどまらず、介護現場の状況は二乗三乗で厳しさを増しているわけです。
地域の介護・医療危機の「高止まり」が問題
こうした水面下の状況まで視野に入れれば、第7波が介護現場に及ぼしている影響は、これまでとはレベルが違うという認識を改めて持つ必要があるでしょう。
現行の施設内療養については、地域医療介護総合確保基金を活用した補助制度(施設内療養者1名につき15万円。追加補助により、最大で30万円)が、今年9月末まで実施延長されています。その他、利用者や職員に感染者が発生した場合などのかかり増し経費にかかる助成金も活用することができます。
しかし、先に述べたように、現状では「現場の感染状況云々」の問題のみならず、地域の介護や医療の体制全般が大きな危機に直面しています。何よりも第7波の特徴として、そうした危機が一過的ではなく「高止まり」していることに着目しなければなりません。
そして、その先に想定されるのは、施設での必要な機能訓練等や通所系サービスの休止にともなう、利用者の状態悪化です。特に認知症のBPSD悪化などは、ただでさえ疲弊している従事者にさらなる負担としてのしかかります。体制危機の「高止まり」が続く現状では、その負担は過去の感染拡大とは比べ物にならないほど大きくなりかねません。
収束すれば「平常業務量」に戻るのか?
その点を考えたとき、感染拡大期のかかり増し経費だけでなく、その後の「サービスの立て直し」を視野に入れた、新たな現場支援策の体系も必要になります。
国が示す新型コロナにかかる業務継続計画(BCP)では、感染収束後に「継続すべき業務の見直し(入所・居住系の場合)」や「優先すべき業務から再開(通所系の場合)」を経て、平常業務量に戻る流れが示されています。
しかし、クラスターや施設内療養の「高止まり」が続いた場合、平常業務にいったん戻った後に、先に述べた「利用者の状態悪化への対応」に関連した業務負担が一定期間増大するという推移を示すこともあります(第6波でも一部で見られた光景です)。
ここで十分なケアが行われないと、利用者も一定のダメージを負い続ける中で、次の感染拡大が訪れた時の重症化が一気に進みかねません。特に第7波での死亡ケースでは、肺炎などの特定の症状ではなく「基礎疾患の悪化によって身体がもたない」などのパターンが目立っています。収束後の十分なケアこそ、次の感染拡大での重症化を防ぐうえで有効という知見も蓄積されてしかるべきでしょう。
問われるのは、現状で国が何を学んでいるか
ここでの追加的な現場支援策というと、過去に行なわれた「慰労金」のようなものを想像するかもしれません。しかし、ここで必要なのは「それまでの現場負担に対する慰労」ではありません。現状で蓄積されている治験にもとづいた、収束後に直近で訪れることが予想される危機を回避するための支援策です。
たとえば、クラスターや施設内療養が発生した介護現場を対象に、国と保険者が連携しながら「利用者の状態変化」を測定し(そのためのLIFE等でもあるはずです)、その結果にもとづいて「平常業務に戻った後に、ケアの再構築を目的として一定期間の助成金を新たに設ける」という方法もあるでしょう。
従事者の負担に応えることに重点を置くのであれば、「慰労金」ではなく「現場回復支援金」のような形で、従事者に直接支払う形をとってもいいかもしれません。
国が、過去そして現在の感染拡大から何を学び、次の感染状況にどう備えようとしているか。そのビジョンが、これからの施策に現れてくると言えそうです。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。