2040年には外国人ケアマネも急増⁉ 多様性がもたらす「介護」の未来像

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2022年度の厚生労働白書が公表され、「社会保障を支える人材を取り巻く状況」が網羅されています。少子高齢化により労働力人口のさらなる減少が見込まれる中、介護ニーズの充足を図るうえでの着目点の1つが「外国人労働者のさらなる受入れ」です。ターニングポイントとされる2040年を見すえます。

外国人労働者を受け入れることのビジョン

今白書の第2章では「担い手不足の克服に向けて」と題し、人材確保に関する今後の方向性が示されています。テクノロジーの活用や業務のタスク・シフト/シェア、そして利用者となる高齢者の健康寿命の延伸などに加え、外国人労働者の受入れ状況にもふれています。

白書で示されている介護現場の事例などを見ると、「目的は人手不足への対応ではなく、ダイバーシティ(多様性)を重視した取組み」である点が強調されています。確かに、人手不足への対応が前面に押し出された場合、「必要な人数を揃えること」のみに焦点が当たり、「一人ひとりの職業人生をどのように尊重するか」というテーマが影に隠れがちです。

言葉尻ではあるかもしれませんが、「働き手への敬い・尊重」が「人手不足対応」の掛け声に隠れてしまうと、その職場・風土にしっかり足を着けて職責を全うするという意識を育むことが難しくなります。これは、外国人労働者に限った話ではなく、介護現場で働く人々すべてに当てはまることでしょう。

逆に言えば、外国人労働者を現場にどのように受入れるかについて、働き手の視点をしっかり尊重することは、日本人を含めたすべての介護労働者の未来を拓くことにもつながります。そのことが、結果として「人手不足の解消」につながっていくという道筋を描くことが必要なのかもしれません。

介護福祉士取得のみがゴールラインではない

問題は、外国人労働者の受入れにかかるビジョンが、法人ごとに異なることです。

仮に「一人ひとりの職業人生の尊重」をしっかり軸に据えているなら、在留資格「介護」の適用に向けて、介護福祉士取得へのサポートに全力を注ぐことは入口として当然のことです。ただし、これはあくまで職業人生の1ステップに過ぎません。大切なのは、その先のキャリアおよび本人の人生形成を見すえた途切れないサポートの必要性です。

具体的には、日本人の同僚との間のコミュニケーションについて、業務上の必要性という枠を超え、お互いを「人間として尊重しあえる」ような関係性の構築を目指すことです。

上記のような関係性の構築により、従事者が信頼しあいチームとしてまとまる土台が形成されます。その土台があればこそ、リーダーや管理者へのキャリアステップを目指しやすくなります。結果として、介護福祉士取得のみをゴールラインとするのではない、広い職業人生が築かれることになるでしょう。

大切なのは「個人の選択権」を保障すること

実際、早期からEPAでの受入れを進めてきた法人の中では、介護福祉士としてのキャリアを積みつつ、ケアマネの取得を果たした外国人労働者がいます。介護福祉士の取得で在留資格を得たことで、腰を据えて地域活動に取り組んでいる人もいます。日本人と結婚して家庭を築いたケースもあります。

もちろん、個人の選択にもとづけば、日本で身に着けた介護技術をもとに母国に戻って活躍する人もいるでしょう。それも尊重されるべきことですが、いずれにせよ大切なのは「個人の人生の選択権」が保障されていることです。ここにダイバーシティを理念としてかかげる法人の基礎価値があるといえます。

しかしながら、法人の中には「将来的な帰国」を前提として、目先の人手不足解消のために技能実習での受入れに躍起となるケースも見られます。技能実習生でも介護福祉士の取得の道はありますが、法人側が(表には出さなくても)「帰国を前提とする」という考えに流されてしまえば、「個人の選択権」が尊重される余地はなくなってしまいます。

個人の選択権が保障されない──これは外国人労働者の問題だけでなく、日本人労働者の権利にも直結します。こうした風土がある限り、目先の人手不足は解消されても、組織を支える長期的な人材育成はかないません。

「介護」の未来像を魅力あるものにするため

先に述べたように、外国人介護職の中には、ケアマネを取得した人もいます。リーダー・管理職としてチームをまとめたり、生活相談員として利用者の日々の相談にも乗っているケースもあります。まだごくわずかではありますが、冒頭で述べた2040年というターニングポイントでは、「当たり前」の光景になっていくことは間違いないでしょう。

その時に期待したいのは、人種や国籍、文化などの多様性を、従事者同士あるいは従事者と利用者・地域社会で認め合い理解しあう社会が育成されることです。これは、いわゆる格差や分断が根深い問題となっている中で、大きな社会改革につながっていくでしょう。

外国人労働者をどのように受入れるかを考えることは、まさに私たちの社会の未来を考えることでもあります。介護現場がそうした発信源となることができれば、それは「介護」という仕事に新たな価値が生み出す土壌となるはずです。そのことが、「介護」に人を集める中心的な魅力となってほしいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。