次の介護保険制度の見直しでは、「福祉用具のあり方」も重要なテーマとなっています。たとえば、2022年9月に整理された「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」の議論がどう反映されるのかにも注意が必要です。その場合、居宅のケアマネにどのような影響がおよぶでしょうか。
一部の貸与種目を販売との選択制にする案
改めて9月の「福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」の議論の整理を確認します。
もっとも大きなテーマは、「一部の貸与種目について、貸与or販売の選択を可能にするかどうか」について。具体的には、ある程度中長期の利用が見受けられる歩行補助杖やスロープ、手すりなどのうち、比較的廉価なものを対象に、利用者が貸与or販売を選択できるようにしてはどうかというものです。
そもそも、この「貸与種目の一部を販売にする」という考え方は、かねてから財務省の財政制度等審議会でも提案されていました。
提案のベースにあるのは、ケアマネジメントにかかる給付の圧縮です。つまり、福祉用具貸与のみのケアプランでもケアマネジメント費用は発生するが、この貸与を販売に移行させれば発生しない──ケアマネジメントへの利用者負担導入とあわせて、財務省側が考える介護費用削減策の1つといえます。
利用者の利便性にはどのような影響が?
気になるのは、貸与から販売に移行するとして、「利用者の利便性はどうなるのか、負担は増えるのか減るのか」という点です。
購入によってケアマネの関与が薄くなれば、モニタリング等を通じた利用者の重度化などを早期に察知する機能が損なわれるという懸念も上がります。利用者の状態変化が著しいというケースでは、いったん購入しても「使わなくなる」という可能性もあります。そうなれば、貸与と比べて結果的に負担増となってしまうことも考えられます。
また、いったん購入した場合に、「貸与」と比べて事業者によるメンテナンスを受けられる機会は確保されるのか。さらには、「販売」の機会が広がることで、使用後の廃棄の増大により、そのコストは誰が負担するのか。かえって介護保険財政の悪化につながる可能性はないか──こうした課題も無視できません。
ちなみに、先の検討会の議論の整理では、以下のような案もあがっています。①いったん購入となった場合でも、その用具の使用期間は、ケアマネや福祉用具専門相談員による支援を実施するべき。②「販売」を選択する場合でも、一定の試用あるいは貸与の期間を設定するべき──という具合です。
居宅介護支援費の範囲は拡大か?縮小か?
こうした議論を受けて、2024年度からの見直しでは、どこまで踏み込まれるのでしょうか。介護保険部会の取りまとめ案では、先の議論の整理を受けて「引き続き、検討を進めることが適当である」としています。
つまり、2023年の介護給付費分科会では、少なくとも「福祉用具貸与・販売」にかかる論点として示される可能性は高いわけです。と同時に、利用者へのサービスが福祉用具購入費の支給だけとなった場合に、ケアマネジメントへの給付を発生させるのかどうかという「居宅介護支援」側の論点も浮上します。
もちろん、他サービスの調整と同様のケアマネジメント過程を経ることや、先の②にあるような「試用期間等」を設けつつ、新たな規定にもとづいたモニタリングを実践する─などの要件が付されることが考えられます。
ただし、居宅介護支援費の発生機会が増えるとなれば、財務省などはなかなか納得しないでしょう。逆に(貸与・販売かかわらず)「福祉用具のみの給付」というケースでは、福祉用具事業者のみが関与し、ケアマネジメントに該当する過程は福祉用具専門相談員が担うといった案が出されるかもしれません。
そうなれば、居宅介護支援費の発生機会は逆に縮小し、財務省が問題視していた「福祉用具貸与のみのプラン作成」が、給付から外れるという流れをたどることになります。
ケアマネジメントの評価をめぐる重大分岐点
また、仮に「貸与or販売」を選択するとなった場合、利用者の主体的な選択に資する情報提供やアドバイスを行なうのもケアマネの重要な役割となるでしょう。福祉用具相談員はあくまで事業者側の立場ですから、(事業者側の収益上の計算が先に立ってしまう可能性があるなど)公正中立性が担保できるかという点では課題も残ります。その点では、やはりケアマネのような第三者的な立場からの「選択支援」が欠かせないことになります。
この福祉用具をめぐるテーマは、ケアマネジメントの本質と価値を再評価する機会となるか、それとも財務省ペースで居宅介護支援費のカットという流れを強めることになるのか──非常に大きな分岐点かもしれません。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。