先送りされた「負担増」をめぐる結論 タイトな日程下で議論の行方はどうなる?

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社会保障審議会・介護保険部会が、「給付と負担の関係」を含めた「介護保険制度の見直しに関する意見」をまとめました。「給付と負担の関係」についての主な論点は7つ。それぞれの改革スケジュールを整理しつつ、これからの議論のポイントを取り上げます。

「早急な結論」が目指された論点は3つ

「見直しに関する意見」で示されているスケジュールは、あくまで「結論を得る」ことについてです。「見直しが実現されるかどうか」は、その時点での議論を経てからとなります。その議論の主舞台がどこになるのか、それによって実現の可能度がどのように変わってくるのか、なども注意しなければなりません。

 7項目のうち、「早急に結論を得る」あるいは「次期計画(2024年度からの介護保険事業計画)に向けて結論を得る」となっているのは、①1号保険料負担のあり方、②一定以上所得(2割負担)の判断基準、そして③(老健や介護医療院における)多床室の室料のあり方となっています。①の具体的な論点は、標準段階の多段階化、標準乗率について高所得者の引き上げ・低所得者の引下げ等です。

 ちなみに、②に関連した「現役並み所得(3割負担)の判断基準については、「引き続き検討を行なう」として結論を出す時期を特に定めてはいません。といって、「当面、実現はない」と考えるのは早計です。その理由については、後で述べることにしましょう。

期限を切っていない論点も急加速する可能性

次に、「第10期計画期間の開始(2027年度)までに結論を出す」としたのが、④ケアマネジメントに対する給付のあり方、⑤要介護1・2(軽度者の表現が使われています)の人への生活援助サービス等に関する給付のあり方です。2021年度までの制度見直しのスケジュールに照らせば、2025年末までに議論を取りまとめたうえ、実現に際しては2026年に改正法審議が行われることになります。

 上記以外の⑥補足給付に関する給付のあり方、⑦被保険者範囲・受給者範囲については、「引き続き検討を行なう」としています。⑥は、資産把握の範囲(不動産を勘案するなど)や手法(マイナンバーの活用など)が論点に。⑦については、2号被保険者の対象年齢の引下げなどが論点となっていました。

これらは、④、⑤(2027年度までに結論)よりも後の改革と解釈されがちですが、期限を切っていないので、今後も随時論点にあげられるのは間違いないでしょう。特に⑥については、マイナンバーをめぐる制度がどのように変わっていくかによって、議論が一気にトップギアに入る可能性もあります。

「夏までに結論」の議論をとりまく環境

先に述べた「現役並み所得の判断基準」も同様です。今回の意見では、「医療保険制度との整合性」が勘案対象となっています。

同時期に医療保険部会側も「議論の整理」を行なっていますが、「現役並み所得の判断基準」については、2022年10月に後期高齢者医療制度に2割負担が導入されたばかりで、「その施行の状況を注視する」としています。今後の医療保険部会側の動きによっては、介護保険の3割負担の拡大も同じく「一気にトップギアに入る」ことも考えられます「。

このように不透明な部分も多々ある一方で、間違いなく「間近に迫っている」という点で気になるのは、「早急」あるいは「次期計画」までの結論出しを明記した①~③の論点でしょう。具体的なスケジュールとしては、「遅くとも来年夏までに結論を得る」としています。

これは、夏ごろに閣議決定が予定されている「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」とほぼ重なります。内閣府(全世代型社会保障構築会議)からのプレッシャーはより強まり、介護保険部会の議論も「既定路線」にはめられがちとなる可能性があります。

世論の動向を示すデータが重要ポイントに?

今回の結論の先送りは、物価高の影響が要因の1つであることは間違いありません。しかし、いつまでも世論の様子見が続けば、その結果として法案作成から審議、施行までのスケジュールがますますタイトになります。

 そうなると、突破のための材料とされがちなのが、「制度の持続可能性のため、世論は負担増を一定程度容認している」というデータです。すでに、今回の介護保険のとりまとめ議論でも、健康保健組合連合会からwebアンケート方式(対象3000人)による国民意識調査の結果が示されています。それによれば、「負担増はやむを得ない」とする回答は全世代で43.9%、70歳以上では5割を超えています。このデータは、今後内閣府や財務省でもたびたび取り上げられることになりそうです。

こうしたデータが出てくれば、負担増に反対する当事者団体などは、「家族の介護をしている世帯の生活実態」などについて、早急かつ詳細な調査を改めて求めるでしょう。あるいは、対抗的に当事者を対象とした独自の調査結果を示してくるかもしれません。

いずれにしても、年明けからの介護保険部会議論は、特に「2割負担層の拡大」をめぐって実態把握のあり方を基点とした激しい議論になることが想定されます。現場のケアマネとしても、「利用者の本音はどこにあるのか」を地域の連絡会等で地道にヒアリングなどの活動を進めていきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。