2024年度の介護保険制度見直しで、地域のサービス資源のあり方が大きく変わることが予想されます。たとえば、既存サービス組み合わせによる新たな複合型サービスの設置、そして事業経営の大規模化・協働化の推進など。具体化に向けた課題はどこにあるでしょう。
新複合型が事業の大規模化をさらに進める?
介護保険部会のとりまとめで示された上記の改革案のうち、新たな複合型サービス(例.既存の訪問介護と通所介護の組み合わせ)については、2023年の介護給付費分科会で具体的な基準・報酬などが議論されます。
目的は、地域の複合的な介護ニーズに柔軟に対応することです。ただし、提案時の事例を見ると「限られた人員の有効配置」や「区分支給限度基準額オーバーの防止」など、運営効率を重視したサービス再編というビジョンも浮かびます。小規模多機能型のように「定員の絞り」が規定されない場合、複雑化する運営マネジメントをこなすという点で、一定規模以上の法人参入が中心となりそうです。
たとえば、同一法人内のA事業所とB事業所を複合させるといったパターンのほか、法人間での合併・吸収を通じて複合型事業所を立ち上げるというパターンも想定されます。仮に後者の動きが進むとなれば、これは「事業所の大規模化」にも直結するでしょう。
地域によってサービスが消えるのを防ぐには
問題は、新たな複合型サービスによって合併・吸収の流れが加速した場合、大規模化した法人による介護人材の抱え込みやシビアなコスト対応によって不採算地域からの事業所撤退も進んでしまう懸念があることです。つまり、利用者が住んでいる地域によっては、在宅サービスが「受けられない」という事態が生じてしまう可能性があるわけです。
こうした状況を防ぐには、たとえば保険者が指定する地域へのサテライト型事業所の展開を義務づけるなどの方法が考えられます。あるいは、社会福祉連携推進法人などの枠組みを活用して、サービスが不足しがちな地域で活動する小規模法人に対し、人材確保・育成のための支援を行わせることをやはり義務づけるといったやり方も考えられるでしょう。
こうした制度上の対応は、新たな複合型サービスの健全な発展という目的だけではありません。すでに現状で、法人間の吸収・合併や地域における小規模事業所の撤退という流れは強まっています。そうした中、どのような地域に暮らしていても「サービスの選択権」が損なわれることがないようなセーフティネットを設けなければならない──この視点を重視した施策のあり方が問われるわけです。
小規模通所系サービスの実態から浮かぶもの
すでに地域のサービス再編は進みつつある──この状況を現わしているのが、厚労省の「介護サービス施設・事業所調査」です。たとえば、地域密着型通所介護や認知症対応型通所介護などの小規模な通所系サービスについて、2015年度以降(地域密着型通所介護は、通所介護が再編された2016年度以降)は一貫して事業所数の減少が続いています。
2022年末に公表された2021年の状況では、地域密着型通所介護は19,578事業所、認知症対応型通所介護は3,753事業所となっています。これは、2018年との比較で、前者で約7%減(減少数は1,465事業所)、後者で約27%減(減少数は486事業所)となります。両者を合わせて、6年間で減少数は1,951と2,000事業所近くがなくなったことになります。
一方、地域密着型ではない通所介護は、2021年(10月)時点で24,428事業所。2018年時点で23,038事業所なので、約6%の増加(増加数は1,390事業所)となります。あくまで推測ですが、小規模な通所系サービスが一定程度「吸収・合併」されているという可能性が浮かび上がる数字といえます。
認知症対応型通所介護はどうなっていくか?
特に気になるのは、認知症対応型通所介護が通常規模以上の通所介護に吸収されている可能性です。認知症対応型通所介護については、2021年度改定で共用型における管理者の配置基準が緩和されましたが、それ以降の減少数はむしろ加速しています。
確かに認知症対応型通所介護は、他の通所介護と比べて基本報酬が高い分(共用型を除く)、利用者負担も大きく、「使いづらい」という指摘も見られます。通常規模以上の通所介護でも、質の高い認知症ケアが提供されているケースもあり、一定の受け皿となっているという見方もあるかもしれません。
しかし、小規模ならではのきめ細かい個別対応がBPSDの悪化防止につながりやすい可能性もあるでしょう。住み慣れた地域からさほど離れないことが、本人にとってなじめる環境づくりにつながることもあります。そうした資源が地域から減少の一途をたどるとなった場合、果たして国の認知症施策推進の方針に沿うのかどうかが問われます。
国としては、小規模多機能型への移行が視野に入っているのかもしれません。また、介護保険部会のとりまとめにある「類似サービスの統合」などにかかってくることも考えられます。確かに、小規模多機能型の増加数と認知症対応型通所介護の減少数はほぼリンクしています。しかし、それで本当にいいのかどうか。認知症対応の地域資源に偏りが生じないのか。このあたりも注意が必要です。
介護給付費分科会では、こうした資源の地域格差の状況や、それによる選択肢不足の発生などについて、議論が始まる前に、詳細な実態調査を行なうことが望まれるでしょう。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。