2024年の介護報酬改定は、診療や障害福祉とのトリプル改定です。この改定に向けては、毎回介護報酬側の審議会(介護給付費分科会)と診療報酬側の審議会(中央社会保険医療協議会)との間で意見交換が行われます。今回も3回にわたり開催が予定されています。
6年に1度の意見交換会。今回は特に手厚く
3回の意見交換のテーマは8つ。(1)地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスのための連携、(2)リハビリテーション・栄養・口腔、(3)要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療、(4)高齢者施設・障害者施設等における医療、(5)認知症、(6)人生の最終段階における医療・介護、(7)訪問看護、(8)薬剤管理となっています。
介護報酬改定は3年に1度、診療報酬改定は2年に1度なので、ダブル改定は6年に1度となります。前回は2018年度、前々回は2012年度でした。そのたびに、こうした介護側と診療側の意見交換会は行われていますが、前々回は1回だけ、前回も2回にとどまっています。今回は3回にわたっての開催となる点で、いつもと様相が異なります。
ご存じのとおり、2024年度改定は「団塊世代が全員75歳以上」となる2025年とタイミングがほぼ重なります。高齢の利用者が増えるということは、持病等の悪化リスクも増えることになり、介護と医療の手厚い連携がこれまで以上に重視されることになります。
問われるのは多職種連携の質であり、居宅でいえば情報をつなぐ重責のあるケアマネの役割が大きなポイントです。今回の意見交換でも、ケアマネの実務のあり方が主要テーマの1つとなっている点に注意しましょう。
対医療連携をめぐるケアマネ関連の論点は?
では、ケアマネの実務はどうなっていくのでしょう。2024年度のケアマネ関連の改定について、対医療連携の視点から予測します。
今回の意見交換会で示された課題を見ると、たとえば(1)のテーマについて、ケアマネの役割に多くのスポットが当たっています。
具体的には、(a)主治医とケアマネの連携について、(b)退院時における医療機関とケアマネの連携について、(c)多職種連携にも資する「適切なケアマネジメント手法」についてです。(a)と(b)は対医療連携の機会としくみのあり方がテーマとなりますが、多くのケアマネが身構えがちなのは、(c)で「適切なケアマネジメント手法」が上がっていることでしょう。
ご存じの通り、「適切なケアマネジメント手法」については、2024年度からの新たな法定研修カリキュラムに盛り込まれます。すべてのケアマネが法定研修で「適切なケアマネジメント手法」を学ぶことを前提とした場合、注意したいのは、対医療連携・多職種連携における「重要な手段」としての位置づけです。
在宅生活の継続下での情報連携に新評価?
(c)の「適切なケアマネジメント手法」については後で述べるとして、まず(a)と(b)で対医療連携の機会としくみが次の報酬・基準改定でどのように位置づけられるかを展望します。
見すえたいのは、利用者の入退院時の対医療連携のあり方もさることながら、それ以外、つまり「在宅生活の継続」に際しての情報連携が改革のターゲットになる可能性です。
その際、(b)に関しても在宅生活中の「入院決定」という時点での情報連携のあり方が焦点となるでしょう。たとえば、診療報酬側で「入院決定時」の「入院時支援加算」が設けられていますが、これに対応するケアマネ側の報酬上のしくみはありません(入退院支援加算については、入院時情報連携加算および退院・退所加算あり)。現在は基本報酬に包括化されていますが、何らかのインセンティブをつけるとするなら、新たな情報連携にかかる加算が誕生することも考えられます。
在宅生活下からの情報連携に統一様式が?
では、それを「入院決定時」に限定するのでしょうか。ケアマネジメントにおける「入院予防(在宅生活の継続)」というテーマを重視するなら、むしろ「在宅生活中の対医療情報連携」の充実を図ったうえで、「入院決定時の情報連携」をその一環として体系づけていくという改革が想定されます。
ちなみに2021年度改定で「通院時情報連携加算」が誕生していますが、これも上記の体系に組み込んだうえで、「在宅生活中」の医療との情報連携のあり方を明確にするというしくみも想定されます。その際には、情報連携の様式を統一したうえで、「入院決定時」や「通院同行時」も、その様式にもとづく情報連携を要件としていく可能性もあるでしょう。
「適切なケアマネジメント手法」の位置づけ
さて、ここで関連してくるのが(c)の「適切なケアマネジメント手法」です。同手法では「基本ケア」「疾患別ケア」ともに、重度化予防や再発予防が「想定される支援内容」に含まれています。この部分に関連したアセスメント・モニタリング項目を、先の情報連携の様式や情報提供時の留意事項に反映させていくといった改定も考えられます。
ここで注意すべきは、「医療等の多職種側」が、ケアマネの実務に応えられるだけの質の高いリターンを行なえるのかどうかです。国として「適切なケアマネジメント手法」を次期改定における1つの軸に据えるのであれば、診療報酬側でも「ケアマネへの情報提供」にかかる相応の実務を求めるべきでしょう。
いずれにしても、次のトリプル改定で、介護・診療の両方に求められるものは何か。上記の予測を頭に入れながら、介護給付費分科会や中医協の議論に注目しましょう。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。