開催中の通常国会で、介護保険法の改正を含む一括法案が審議されています。同法案から、居宅介護支援事業所として気になるのは、やはり介護予防支援の指定を直接受けられることになる点でしょう。そして、もう1つ注目されるのが、包括から総合相談支援にかかる業務委託が可能になるという点です。
施行直後は「様子見」となる事業所が大半?
仮に、事業所として介護予防支援の指定を受けるとなった場合、市町村や包括との連携が必要とはいえ、「委託」という経緯が要されなくなる分、担当件数の増加が想定されます。事業所としては、所属するケアマネの業務負担がどうなるかについて、業務上のタイムスタディなどを行ないながらの運営上のシミュレーションを図ることが必要になるでしょう。
ここに加わってくるのが、冒頭でも述べた「包括からの総合相談支援業務の委託」です。恐らく大半の事業所は、包括での業務実態から「受けている余裕はない」として、しばらくは様子見の姿勢を取るものと思われます。
では、その後に踏み出す事業所が増えていくのかどうか。その点を占うのが、現行で包括が担っている業務の実態でしょう。総合相談支援にかかる業務実態については、厚労省が介護保険部会で提示した資料(包括へのアンケート調査の自由記述など)から、以下のような厳しさが浮かんでいます。
求められるのはスピードと持続力の両方
たとえば、相談内容が複雑・多様化しているうえ、すぐには解決できずに「長期化する」傾向があること。その一方で、虐待通報も多いことから「早急な対応」も必要になっているという状況もあります。スピード感とともに長期化を見すえた対応が求められる点では、たとえるなら「マラソンを短距離走のスピードで走る」といった具合かもしれません。
また、ある圏域の包括では、予防支援を除いた支援件数が月70件に達し、それを相談員5人で対応しているというケースも。件数が増えがちな背景として、行政窓口から「包括に相談するように」と言われて来たというパターンが多いこともあげられています。
こうした状況を見ると、保険者の対応姿勢によっては、想定外の相談件数にのぼる可能性もあることがわかります。つまり、いったん窓口を開けば「断れない」という状況もある中、自事業所のキャパシティとの兼ね合いが測りきれないことも起こりうるわけです。
国は2027年度を見すえた環境整備に着手か
1事業所あたりのケアマネ数が減少傾向にある中、仮に事業を受託するとしても「居宅介護支援の人員(ケアマネ)を割くことは難しい」となるのは必然でしょう。といって、ケアマネジメントにかかる研修を受けていない人員をあてるのは、総合相談支援という業務の性質上、現実的ではありません。
たとえば、国が「委託先の人員要件」を緩和するという動きを見せたとします。それでも、「虐待などの困難事例が多い」となれば、事業所としては「ケアマネ以外に対応させるのはリスクが大きい(結局は、現場のケアマネにしわ寄せがおよぶ)」と見るでしょう。社会福祉士等なら対応は可能かもしれませんが、採用コストなどを考えた場合、「やはり割に合わない」と判断する可能性は高いといえます。
こうしてみると、施行予定の2024年度からしばらくは、総合相談支援事業を受託する居宅介護支援事業所は、極めて限られそうです。加えて、介護予防支援の指定もとどこおれば、「包括の業務負担の軽減」の実現そのものが宙に浮きかねません。
そうなった場合、国としては、さらに3年後(2027年度)を見すえて「居宅介護支援事業所が委託を受けやすくなる」ための環境整備に着手する可能性があります。先に述べた「対応人員の要件緩和」を図るほか、委託費の引き上げなども議論されそうです。
介護報酬で「受託」のインセンティブも?
しかし、いずれも対応策としては限界があります。前述のように、人員要件の緩和などは現場の実務をかえって混乱させる恐れがあります。委託費の引き上げも、地域支援事業費の大幅増につながる点で、財務省などが首を縦にはふらない可能性も高いでしょう。
となれば、考えられるのは介護報酬による誘導です。たとえば、特定事業所加算で「総合相談支援を受託している」あるいは「介護予防支援の指定を受けている」といった要件での上乗せ区分を設けるといった具合です。
現行の特定事業所加算でも、「包括からの紹介で困難事例のケースを受けている」という要件があります。こうした包括との関係性がすでに要件になっている点を見ると、決してありえないことではないでしょう。
一方、懸念されるのは、「基本報酬を下げて、委託費へのインセンティブを高める」などの方法がとられることです。もちろん、職能団体等の反発を考えれば可能性は低いかもしれません。ただし、注意したいのは2024年度からの研修カリキュラムの見直しです。
その中で、講義および演習の科目に「他法他制度の活用が必要な事例のケアマネジメント」が加わりました。これなどは、総合相談支援のスキルにもつながるものです。今回の業務委託が想定されたわけではないでしょうが、「今後の居宅介護支援の役割」をめぐって、強い改革が打ち出される土台ともなりえます。
もっとも、居宅介護支援の経営を安定させ、中長期的にケアマネを増やすことができなければ、どのような施策も円滑に行なうことは不可能です。問われる前提は常に同じです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。