認知症利用者の在宅生活の継続には、 「医療側」の対介護連携の意識向上も重要

イメージ画像2024年度の介護・診療報酬の同時改定に向け、介護側(介護給付費分科会)と診療側(中央社会保険医療協議会)の間での意見交換会が開かれています。4月19日の第2回会合では、「認知症」がテーマとなりました。ケアマネ等の対医療連携において、どのような改革の視点が必要となるでしょうか。

利用者の入院時、病棟の認知症ケアは?

ケアマネにとって、認知症の利用者の支援を進めるうえで、ターニングポイントとなるのが「本人にとっての大きな生活変化」が生じた場合です。特に注意したいのは、疾病の悪化や発症・ケガにともなう「入院」です。

ケアマネとしては、これを防ぎつつ在宅生活の継続を図ることを、ケアマネジメント上の重要な課題と位置づけているでしょう。しかし、それでも「入院に至る」というケースが生じてしまうことがあります。

その場合、本人が退院した後、いかに円滑に「入院前の生活」に復帰できるかが問われます。そのために、行動・心理症状(BPSD)の改善をどう図るかなど、苦心するケアマネも多いのではないでしょうか。

ちなみに、診療報酬では、入院医療機関側に「認知症ケア加算(Ⅰ~Ⅲ)」が設けられています。また、侵襲性の高い手術などによるせん妄リスクの高まりに対し、「せん妄ハイリスク患者ケア加算」もあります。しかし、すべての医療機関が算定しているわけではありません。また、認知症ケア加算などを算定していても、身体的拘束の実施日が約3割あり、その割合はやや増加傾向にあります。

そうなると、本人の退院後の生活継続支援を視野に入れているケアマネとしては、「入院医療機関で、どのようなケアが行われているのか」が気になるところです。

現行の退院・退所加算に認知症対応評価を

そうした入院中の状況も含めて、情報入手の機会を評価したのが「退院・退所加算」です。利用者入院期間にかかわらず、医療機関との情報共有を行なった場合でも、要件となる連携回数に含むことは可能です。

この「退院・退所加算」の目的は、利用者の退院後の「円滑な在宅生活への移行」です。その点で、入院中の認知症対応がどうなっているかを把握することも、同加算の趣旨に沿っていることにはなるでしょう。

問題は、医療機関側が「本人の認知症BPSDの状況」などを、「円滑な在宅生活への移行」におけるポイントとしてどこまで重視できているかという点です。「認知症ケア加算」を算定している医療機関はともかく、そうでないケースの場合、医療機関側とケアマネ側の間で連携がかみ合わないともなりかねません。

そこで、現行の退院・退所加算において、本人の認知症をめぐる情報共有に焦点を当てた区分なども検討したいものです。これに対応するため、診療報酬側でも、「病棟内での認知症対応にかかる情報提供」に特化した評価なども求められるでしょう。「認知症ケア加算」を算定している医療機関なら、上記のような情報提供を要件で明確化することも必要です。

通院時でも問われる主治医の認知症への意識

こうした認知症をめぐる連携は、在宅生活で通院等が行われている状況でも重視されるべきでしょう。たとえば、認知症で独居の場合、服薬管理の難しさが、疾病の悪化(その影響によるBPSD悪化など)リスクを高めます。その場合、訪問看護などを導入しての服薬管理が大きなポイントとなります。

問題は、訪問看護の指示書などを書く主治医が、適切な服薬管理の継続に向けて、どこまでケアマネ等の職種と前向きにタッグを組んでくれるかということです。

たとえば、お薬カレンダー等での管理を行ないやすくするため、疾病の悪化リスクとのバランスを取りながら、1日の服薬回数や薬の種類を減らすなど、主治医がいろいろと意識・提案してくれるかどうか。そうした医療側の対応力もますますカギとなってきます。

現場のケアマネからは、「在宅生活は無理だろう」という前提から、すぐに思考を施設入所等にシフトさせてしまう医師もいるという話を聞くことがあります。こうした状況も、診療側で解決するべき課題の1つでしょう。

通院時情報連携加算にも新区分ができるか?

こうした点を考えたとき、先の退院・退所加算(診療側は認知症ケア加算)での+α評価だけでなく、通院時での認知症を考慮した情報連携の評価も上乗せが求められます。

ケアマネ側では、2021年度改定で通院時情報連携加算が誕生しましたが、ここに「利用者が認知症」のケースを対象に情報提供様式などを設けて、上乗せの評価を図っていくという方法もあるでしょう。もちろん、診療側の協力体制の強化も必要です。たとえば、認知症地域包括診療料の要件の一部(関係団体主催の研修を修了した担当医の配置など)をすべての外来診療で必須化するなど、ケアマネとの情報連携の質を上げられる体制づくりを強化するなどが考えられるでしょう。

いずれにしても、認知症のある高齢患者がこれからも増え続ける中で、診療側の思い切った体制改革は不可欠です。その入口として、「認知症の人の在宅生活の継続」をテーマとしたケアマネとの連携の質を向上させること──ここから始めることが必要でしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。