新型コロナ感染症について、5月8日以降、従来の「新型インフルエンザ等感染症」から「5類感染症」となります。これまでの「介護報酬上の臨時的な取り扱い」も見直しの案が示されました。こうした変化は、現場実務にどのような影響を与えるでしょうか。
「行政の関与」から「個人の選択尊重」へ
重症化リスクの高い要介護高齢者が利用する介護サービス現場に対しては、5月8日以降も感染対策の徹底を「当面継続する」旨が示されています。一方で、たとえば勤務中の従事者のマスク着用については、「周囲に人がいない場合」や「利用者と接しない場面であって会話を行なわない場面」などについて、「マスクの着用を求めない」といった判断が想定される──という通知も出ています。
このあたりは、現場の管理者が「適宜判断する」ことになります。とはいえ、現場としては「基本的に今までと変わらない姿勢でのぞむ」ということになるでしょう。先のマスク着用でいえば、利用者や家族に対しても、事業者判断で「マスクの着用を求めること」は許容されます(新型コロナウイルス感染症対策本部決定により、3月13日より実施済)。
もっとも、感染法上の位置づけが変わり、「法律にもとづき行政がさまざまな要請・関与をしていくしくみ」から「個人の選択を尊重し、国民の自主的な取組みをベースとしたもの」へという方針転換がなされたことは、決して些細なことではありません。加えて、冒頭で述べた「介護報酬上の臨時的な取り扱い」についても、一部改定が想定される中では、現場の実務にもさまざまな影響がおよぶことに注意しなければなりません。
「臨時的取扱い」の中で終了となるものは?
介護給付費分科会で示された見直し案のうち、「当面継続」とされたものとして、たとえば通所系サービスで「事業所が休業している場合の居宅訪問でのサービス提供」に、その時間に応じた通所の該当区分の報酬が算定できる──などがあります。また、「コロナ禍で一時的に人員基準等を満たせなくなる場合の減算等は行わない」という取扱いも、利用者や従事者にコロナ患者等が発生した場合は、柔軟な取り扱いを継続するとしています。
一方で、5月8日以降は「臨時的な取り扱い」をせず、「感染対策をしたうえで通常通りにサービス提供を行なう」というものもあります。たとえば、訪問看護等での「電話での安否確認や療養指導」、ケアマネでは「感染拡大防止の観点等から、月1回のモニタリング訪問ができない場合での柔軟な取り扱い」などが、コロナ禍前に規定に戻ります。
こうした「臨時的取扱い」をどこまで適用してきたかによりますが、事業所によっては従事者の業務習慣に一定の変化が生じることもあるでしょう。従事者の心身に大きな負担がかかるとまでは言えないものの、ちょっとした実務上のミスなどが増えてくる可能性もあります。こうした部分で、管理者等としては、全体の仕事の流れを意識的にチェックする必要があるかもしれません。
利用者側の「心理」に生じる変化とは?
そのうえで注意したいのは、今回の方針転換により「個人の選択の尊重」や「自主性ベース」が広報されることにより、利用者や家族によって「感染防止」のとらえ方に差が生じやすくなるという可能性です。
たとえば、方針転換前の「行政による要請・関与」が前面に出ていた状況では、そのことで、一般の人々の「ものの考え方」にも一定の縛りが生じやすくなっていたといえます。
たとえば、「ケアマネにじっくり相談したいこと」があっても、「このコロナ禍では、電話でやり取りするのが精一杯なのも仕方ない」という自制が生じやすくなります。
ここで、今回の方針転換によって「縛り」が取れた時、どのようなことが起こるでしょうか。まず考えられるのが、今まで自制していた分、心の中で抑えられていた心配事などが一気にケアマネ等に寄せられる可能性です。つまり、「(定期のモニタリング以外でも)訪問してほしい」、「膝を交えてじっくり話を聞いてもらいたい」といった衝動が高まり、ケアマネへの要求度が上がってくるわけです。
管理者は、しばらく現場ヒアリングに注力を
「いきなりそんなことにはならないだろう」と思われるかもしれません。確かに、人によっては「国は方針転換をしたけれど、まだまだ感染には注意しなければ」と(特に高齢者の場合は)慎重さが維持されるケースも多いでしょう。また、数年にわたりコロナ禍での「縛り」や「自制」が当たり前だった中で築かれた思考習慣は、それ自体、なかなか解消されるものではありません。
一方で、それまでの「縛り」がなくなることは、ものの考え方の拠り所を不安定にします。強い「自制」のままという人もいれば、逆に過剰な「解放」に向かうなど、二極化が進むことも考えられます。人によっては、先のような「ケアマネ等への依存的な傾向」が高まってくることがあるかもしれません。
その点を考えたとき、事業所の管理者としては、そうした現場従事者と利用者・家族の関係性が「どうなっていくか」に注意を払うことも必要です。たとえば、5月8日から1か月ほどは、従事者へのヒアリングや相談対応の機会を意識的に増やしつつ、現場状況の把握に力を注ぐようにしたいものです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。