仕事と介護の両立支援などを通じ、 ケアマネの社会的価値を高めるために

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ケアマネの新たな法定研修の実施要綱では、「家族支援」に関して「仕事と介護の両立支援」や「ヤングケアラー支援」などが具体ケースとして明記されました。ただし、この支援を機能させるには、ケアマネ個人のスキルアップだけでは追いつきません。必要なのは、それらの支援の制度的な位置づけです。

両立支援などのケアマネ業務をどう評価?

「仕事と介護の両立支援」については、ご存じのとおり、育児・介護休業法がたびたび改正され、介護休業・休暇等のしくみの拡充が図られてきました。最新の改正では、2022年度から、有期雇用労働者の介護休業等の取得要件の緩和が図られました。また、企業向けの両立支援の実践や「介護支援プラン」の策定に向けたマニュアルなども示されています。

一方、「ヤングケアラー支援」では、児童福祉法の改正(施行期日は主に2024年度)により、こどもの包括的な相談支援を担う「こども家庭センター」の設置が自治体の努力義務となりました。同センターでは、支援を要するこども等に向けた支援計画(サポートプラン)を作成します。さらに、2022年度から児童相談所に保健師が必置化されました。

このように、さまざまな施策・制度の整備が進む中で、気になるのはケアマネの位置づけです。2024年度から法定研修のカリキュラムが見直されますが、日々の実務とあわせて培われるスキルを、介護報酬をはじめ制度上でどのように評価していくかという点について議論を深めることが必須となります。

両立支援を行なう企業とケアマネの位置づけ

ちなみに、「仕事と介護の両立支援」に取組むケアマネに関連した資格としては、日本介護支援専門員協会の認定資格である「ワークサポートケアマネ」が、民間資格として2020年に誕生した「産業ケアマネ」があります。

たとえば、ワークサポートケアマネについては、依頼企業との契約によって介護離職予防プログラムの策定や社員への個別相談支援に取り組むことが想定されています。また、産業ケアマネの1級では、顧問先企業での活動実績が取得要件と示されています。

ただし、こうしたケアマネの助力を得る(ケアマネとの委託契約や社員として採用する)ことは、あくまで企業側の任意にとどまります。若年労働者の減少で社員の年齢層が上がり、「これから家族の介護ニーズが高まりやすくなる」という状況があっても、企業側の意識にはどうしても差が生じがちです。

となれば、国が進める「仕事と介護の両立支援」に「ケアマネジメント」をしっかりはめ込むうえで、制度上の後押しが欠かせません。具体的には、産業医のように、一定規模の事業所にケアマネ配置(委託契約など含む)を法的に義務づけるなどが考えられます。

ヤングケアラー支援における多機関との関係

ヤングケアラー支援についても、同様のしくみが考えられるでしょう。たとえば、先に述べた「こども家庭センター」の人員配置要件にケアマネ資格保持者を含めたり、児童相談所に居宅介護支援事業所との日常的な連携を義務づけ、相談所の職員がヤングケアラーを発見した場合に、連携先のケアマネにつなぐしくみを設けるといった具合です。

あるいは、学校等の教育機関からの「ヤングケアラーに関する相談」に、居宅介護支援事業所が対応するしくみなども制度化する余地はあるでしょう。また、学校内の課外的なカリキュラムにおいて、ヤングケアラーについて学ぶ機会も設けつつ、講師としてケアマネを派遣し、生徒への相談対応も行なうというしくみなども考えられます。

いずれにしても、ケアマネを「要介護者との契約関係」という枠内にとどまらず、「高齢者介護」という切り口から「地域の経済や教育」などを幅広く支える存在として、制度上で明確に位置づけることになります。

ケアマネの「働き方」に新たなをスポットを

こうした考え方については、「ケアマネの業務範囲をなし崩し的に広げてしまう」という批判もあるかもしれません。しかし、だからこそ制度化によって業務範囲を明確にし、国の政策上の評価につなげることが必要です。

ちなみに、厚労省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」で報告書案が提示されました。そこには、「企業が介護保険制度や両立支援制度に関する社内セミナーや研修の開催、相談窓口の設置など雇用環境整備を進めることが必要」と示されています。

具体的な施策の形ではありませんが、「企業の取組義務」とする流れが見え隠れします。そうなれば、企業としては居宅介護支援事業者と委託契約し、「ケアマネの派遣を依頼する」というニーズも拡大するでしょう。

問題は、介護報酬が上がらない場合、いわゆる「サイドビジネス」として、こうした委託契約を増やす事業者が増えることです。ケアマネジメントの依頼を受けやすくするための新たな営業機会と位置づける事業者も出てくるかもしれません。そうなると、ケアマネの業務負担が「介護保険制度からは見えにくい部分」で拡大してしまう恐れも生じます。

これを防ぐには、制度化によって新たな業務範囲を「見える化」することです。制度上で「見える化」できれば、ケアマネの制度への貢献度も明らかになり、介護保険上での処遇改善の議論も適正に進みやすくなります。

ケアマネの活躍の場が増えるのは、社会的価値の向上という点では望ましいことでしょう。しかし、それによってケアマネの働き方が不安定にならないよう、常にスポットを当てるしくみを整えておくことが欠かせません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。