次の報酬改定に向けて財務省は? 2027年度「本丸」改革に向けた布石に注意

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2024年度改定に影響を与える厚労省の外での動きですが、今回は財務省の財政制度等審議会の建議を取り上げます。こちらは、介護報酬の改定率などを左右する2024年度予算編成の動向にも直結します。物価高騰等で厳しさを増す介護現場として、何をチェックし、どのように受け止めていくべきでしょうか。

改定率を左右する予算編成に向けた流れは?

まず、主に予算編成をめぐる今後の展開をざっと押さえておきましょう。今回の財務省側の建議とともに、間もなく閣議決定される政府の「骨太の方針2023」が土台となり、その方針に沿って各省庁が8月末までに次年度予算の概算要求を提示します。その後、財務省側の予算原案の提示や大臣間の折衝などを通じ、本予算案が取りまとめられます。

その予算案の取りまとめに際して(おおむね年末)、新年度からの介護報酬の改定率が示されます。タイミング的には、介護給付費分科会の審議報告が取りまとめに入る時期です。改定の方向性がまとまると、予算編成上で示された改定率に合わせて、基本報酬や加算の単位が設定されるという流れになります。

この流れをさかのぼれば、やはり今回の財政制度等審議会の建議が重要な立ち位置にあることが分かります。建議の具体的事項が報酬改定案にどこまで反映されるかは流動的ですが、介護給付費分科会でも議論に際して常に意識されることになるでしょう。

建議内「介護事業の収益は安定」は本当か?

上記の流れを頭に入れつつ、介護報酬改定に向けた財務省の考え方を確認しましょう。
まず前提として、団塊世代が85歳以上となる「10年後」を見すえたとき、「保険料・公費負担の上昇、介護サービスを支える人材確保には限界がある」と明記しています。つまり、介護給付費全体の抑制に加え、「人材確保の限界」を述べたことで、処遇改善関連の報酬抑制にも踏み込んだことになります。

当然、現場からの強い反発が予期されますが、建議では今回も「介護事業の収益の安定した伸び」を強調。2013年との比較での収益増の推移を、他業界・他業種との比較で示しています。他業界・他業種が一進一退を示す一方で、介護サービスは急速な右肩上がりを見せるというグラフも示されました。

確かにインパクトはありますが、あくまで2013年という定点との比較に過ぎません。また、昨年からの物価高騰の影響なども十分に反映されていない中(グラフは2022年まで)でのデータなので、これをもって報酬の抑制を打ち出す根拠としては弱いと言えます。

財務省がまず目指すのはサービス体制再編!?

そこで打ち出されているのが、(1)介護事業者の現預金・積立金等の水準や(2)規模別の収支状況、(3)新設・倒産(解散)等の推移です。

(1)は「主に介護保険事業を運営する社会保福祉法人」について、平均して年間にかかる費用の6.5カ月分の現預金・積立金等が保有されているというデータを紹介。(2)では、たとえば通所介護において、最小・最大規模の事業者間の収支差率に15%の開きがあるというデータが示されました。(3)では、介護事業者全体で休廃業・解散・倒産が右肩上がりとなっている一方、社会福祉法人では解散がほぼ横ばいの状況が示されています。

つまり、介護事業の経営上の厳しさは「事業所規模」の要因が大きいことや、法人ごとの財務構造によっては現預金や積立金等の内部留保で費用をカバーできる──と分析しているわけです。さらに、(2)に関連して1法人あたりのサービス拠点数が5以上になると、収益率が一気に高まることも示しています。

以上の建議内容から浮かぶのは、全体としての改定率がどうなるかという以前に、介護報酬の構造の見直しや事業所およびサービス提供体制の再編をうながすという流れです。

新複合型をテコとした事業の大規模・協働化

具体的に、予算編成上でどのような対応が予測されるでしょうか。今週中に閣議決定が予想される「骨太の方針」にもよりますが、改定率は大幅な上下とならない可能性が高いかもしれません。一方で、事業の大規模化・協働化に向けた報酬上のインセンティブの創設などをうながすことが考えられます。

大規模化・協働化に向けた誘導については、上記で述べた「サービス拠点数」にかかる方策も含まれます。たとえば、大きな論点となることが予想される「新たな複合型サービス」について、その基本報酬を高く設定しつつ、大規模化・協働化の1つの目指すべき方向性に位置づけるというものです。

具体的には、「訪問系+通所系」の新たな複合型サービスの設立を目指すことを要件に、異なる事業所間の合併・統合に対して、新たな加算(複合型創設のための事業統合を要件とした加算など)や補助金などを打ち出すといった案が出てくるかもしれません。

いずれにしても、現時点で財務省側が優先的に目指しているのは、経営効率の低い事業形態の是正といえます。そのうえで、改正法にもとづく財務状況の詳細な分析を進めつつ、次の2027年度改定で大きな報酬構造の転換を目指すことになりそうです。その報酬構造の転換には、給付サービスの一部を地域支援事業に移行させる案も含まれるでしょう。

財務省にとって、2024年度改定は「本丸」ではなく、あくまで「周囲の堀の改造」に力点を置いたうえで2027年度を目指す──今回の報酬改定の議論は、そうした意図のうえで展開されることを頭に置きたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。