ケアマネ年齢の偏りをどう考える? 両立支援と処遇改善の本格的な議論を

ケアマネの平均年齢は51.9歳で、介護関連職種全体の50.0歳、介護職員の49.8歳をいずれも約2歳上回っています。それ以上に際立つのが、年齢層の分布で「40歳未満」が1割に満たないこと。若い世代の参入スピードが鈍い状況をどうとらえればいいのでしょうか。

ケアマネになるには一定の時間は必要だが…

「40歳未満が1割」という数字については、「仕方がない」と見る向きがあるかもしれません。というのは、2018年度の実務研修受講試験の要件変更により、(1)介護福祉士等の規定の国家資格を取得、もしくは一定の相談援助業務に就業、そして(2)(1)において「通算5年以上かつ従事日数900日以上」の実務経験があることが定められたからです。

たとえば、(1)で介護福祉士を取得するのに実務者研修ルートだと3年の経験が必要です。そこから(2)の実務経験5年がプラスされれば、未経験から介護分野で働き始めた場合、ケアマネになるには最短で8年かかります。つまり、介護職員より8年程度の年齢的な上乗せが行われるとなれば、若い世代のケアマネはどうしても限られてしまうことになります。

ただし、「40歳未満が1割」というのは、「それでも少なすぎる」と感じる人もいるでしょう。注意したいのは、先の「8年程度」というキャリアステップの間に、さまざまなライフイベントが生じる可能性です。

ケアマネになるまでのタイムラグ解消が必要

たとえば、出産、子育てなどを経る過程で、仕事と家庭の両立支援がうまく行き届かずに、キャリア形成の継続が途絶えていることも考えられます。「ケアマネになりたい」という希望は薄れていなくても、「子育て等が一段落してから」となれば、ケアマネとして就業する年齢はどうしても引き上がります。

また、若い人の場合、介護分野で働き続ける中で、職業人生にかかる考え方や経済的な事情などが変わることがあります。経済的事情でいえば、他業界の賃金引上げに比べて介護分野の処遇がなかなか上がらないとなれば、「他業界への転職」を志す人も出てきます。

その後に「もう一度介護分野を目指す」となっても、相応のタイムラグが生じることになるでしょう。やはり、ケアマネになるタイミングは年齢を経てからとなりがちです。

こうした状況が解消されないと、ケアマネを目指す人のすそ野は入口段階でどうしても狭くなりがちです。結果として、介護分野での就業を目指す人が今後増えたとしても、ケアマネの増加には結びつきにくい構図が定着してしまうことになりかねません。

両立支援の浸透にかかるアウトカムも必要か

こうした状況を解消するには、先に述べた仕事を家庭の両立支援が、業界内で確実に機能させる風土を築くことがまず必要でしょう。

ちなみに、2021年度改定では、各種処遇改善加算の職場環境等要件に「両立支援・多様な働き方の推進」の区分が追加されました。

また、人員配置基準における両立支援への配慮として、たとえば以下のような規定がプラスされました。具体的には、人員配置基準や報酬算定で「常勤」での配置が求められる職員が、産前産後休業や育児・介護休業等を取得した場合に、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算することで、人員配置基準を満たすことを認めるというものです。

ただし、これらの改定を両立支援の強化へと確実につなげるためには、さらに踏み込んだ改革も必要になるでしょう。たとえば、一定期間内の育児・介護休業等の事業所・施設内の取得率等によって、処遇改善加算の加算率を上乗せするなどの「アウトカム評価」も検討できないでしょうか。

もちろん、適正な評価を導き出すことは、簡単ではないかもしれません。しかし、さまざまなアウトカム評価が検討される中、議論すべき重要なテーマの1つとすることは、少子化対策の視点でも必要となるでしょう。

ケアマネの処遇改善に向けた具体策の方向性

こうした「継続就業」に向けた土台のうえで、不可欠となるのが「ケアマネの処遇改善」です。たとえば、介護福祉士を取得し、現場で一定のキャリアを積み重ねた場合、特定処遇改善加算等による賃金アップの結果、居宅ケアマネの「初任者」として就業した場合に賃金が低くなるケースは実際に生じています。

そうなれば、「居宅ケアマネになる」ことに躊躇する心理は当然高まるでしょう。「しばらくは同一現場での相談員業務(ケアマネ資格を取っても施設ケアマネ等)として勤務する」というケースも増えます。結果として、居宅ケアマネとしての就業のタイムラグはさらに広がっていきかねません。

これを解消するには、居宅ケアマネの初任者時点で、それまでの介護福祉士等のキャリアを上回る処遇が必要です。仮に現行の処遇改善加算の体系に組み込むのであれば、(人件費率に加え)上記のキャリアを考慮した加算率を設定することも不可欠でしょう。

さらに、介護職員等として働く場合でも、常に「ケアマネへのキャリアアップ」の意識が培われるよう、たとえば介護福祉士の実務者研修でも、「ケアマネジメントを学ぶ」ためのカリキュラムも整えたいものです。

ICT等活用による業務効率化の議論も必要ではあるでしょうが、ケアマネのための本格的な処遇改善がともなわない限り、ケアマネジメントの土台は揺らぎかねません。その点をしっかり見据えた議論が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。