認知症BPSDの予防・改善に向けて─ 居宅ではチーム全体への評価も必要に?

質の高い認知症ケアを、介護報酬上でどのように評価すればいいのか。9月27日の介護給付費分科会の関係団体ヒアリングで、複数の団体からあげられている課題です。特に認知症BPSDの予防・改善に向けた取組み強化は、認知症施策推進大綱でも示され、介護施策上での具体化が急がれるテーマです。

認知症専門ケア加算をめぐる業界団体の要望

2021年度改定では、訪問介護などにも認知症専門ケア加算が適用されました。しかし、適用1年後のデータでは、訪問介護における区分の算定事業所率はわずか0.01%(5件)で、個別研修の計画・実施を要件とする区分IIに至っては算定事業所0です。この数字では、報酬体系の簡素化が論点となる中、見直しのターゲットとなる可能性も高いでしょう。

ちなみに、日常的に高いレベルの認知症ケアが求められる認知症GHでも、同加算の算定率は芳しくありません。区分の算定率は2割強ですが、区分IIは1.38%に過ぎません。

これについて、9月27日の関係団体ヒアリングでは、日本認知症GH協会から「(加算の配置要件である)認知症介護実践リーダー研修修了者、認知症介護指導者要請研修修了者の配置に要するコストに比較して加算額が少額」であることなどが指摘されています。

加えて注目したいのが、「算定要件にBPSDの予防や改善の評価が反映されていない」という指摘です。全国ホームヘルパー協議会のプレゼンでも、「認知症ケアを通常行なっていながら、在宅生活を続けることのできる状態の利用者(日常生活自立度IIIに満たない者)は算定基準に満たないため、加算されない」と訴えています。つまり、日常生活自立度IIIに至る前に、BPSDの予防・改善により生活を維持することの評価を求めているわけです。

BPSD予防・改善ケアの体系化に向けて

認知症BPSDの予防・改善では、国が主導する研究はともかく、現場レベルにおけるノウハウの蓄積は進んでいます(そうしたノウハウを反映させ、利用者のBPSD悪化をAIが分析・予測するアプリも開発されています)。

たとえば、BPSD悪化につながるとされる因子の中には、本人の持病・体調や服薬にかかる管理状況、室内外の照度や騒音、気温の状況、介護者による言動や態度、視線の合わせ方などさまざまなものがあります。それらのデータを蓄積・解析したうえで、体系化することは、今後の認知症ケアを推進するうえで欠かせないプロセスとなるでしょう。

もちろん、現場経験が豊富な職員や事業所では、ケアの体系化などの実践は進んでいます。しかし、介護業界全体として見れば、人材不足が深刻化する中で、経験の浅い職員やノウハウの蓄積が乏しい事業者でも、一定の効果が期待できるケアの平準化は急務です。

それが実現できてこそ、保険料が高騰する介護保険制度に対し、国民の信頼を取り戻す契機となるのではないでしょうか。

認知症ケアの新たな指標も検討する必要あり

そのためには、(1)各現場でどのようなケアを行なっているのか。(2)それによってBPSDの予防・改善などの効果がどれくらい上がっているかというデータ収集が前提となります。データ収集で必要なのは、多くの事業所が「効果あり」とされるケアにトライすることであり、そこにインセンティブを設けることです。

もちろん、解決しなければならない課題は数多くあります。たとえば、(2)においてアウトカムデータも必要となれば、何をもって「BPSDの予防・改善」とするのかという指標が必要です。現行の科学的介護推進体制加算では、DBD13(認知症行動障害尺度)などがありますが、その活用の拡大や新指標の開発なども必要となってくるでしょう。

さらに重要なのは、たとえば居宅ケアの現場となれば、単独のサービスだけで効果を上げるのに限界があることです。ケアマネ主導によるチームケアにおいて、すべての担当者がBPSD悪化リスクの因子を共有しつつ、連携を取りながら対応することが欠かせません。

当然そこには、持病の管理や適切な薬の処方といった観点から、主治医のかかわり方も課題に含まれてくるでしょう。

ケア記録の様式統一とチームの取組み評価

こうした課題を念頭に置いた場合、中長期的な視点も含めて、求められる施策のポイントは以下のように整理することができます。

第一に、BPSDの予防・改善に向けた指標の開発・再編に向けた第一歩として、どのようなケアを行なったかという記録の様式統一を図ることです。認知症専門ケア加算でも、こうした統一様式を用いた実践を高く評価しつつ、単位の引き上げを図るべきでしょう。

第二に、居宅でのチームケアにおいては、かかわる事業所(福祉用具事業者なども含む)すべてに評価が活き渡るしくみが必要です。つまり、BPSDの予防・改善を評価する加算等を設ける(認知症専門ケア加算の再編含む)のであれば、居宅介護支援も含め、かかわる事業所すべてを算定対象にするわけです。

この場合、主治医については、診療報酬上の診療情報提供料の見直しなどで、対応する報酬上の評価を設ける方法もあるでしょう。

もちろん、現場実務の増大が予想される中では、前提として基本報酬や処遇改善による下支えが欠かせません。利用者の負担増に結びつく点では、認知症関連加算を区分支給限度基準額の計算から外すなどの論点も必要でしょう。国は認知症基本法を定め、認知症施策を根幹に位置づけているわけですから、決してハードルは低くないはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。