ケアマネ処遇改善加算の実現可能性 それは「居宅」だけか? それとも…

2024年度改定に向け、現状での最大テーマといえば、今後も加速が懸念される「人材不足」でしょう。そこには当然「ケアマネ不足」も含まれます。基本報酬のアップや処遇改善加算の適用などがテーマの中心となりますが、気になるのはそれら施策の「適用範囲」です。

いよいよ、ケアマネの処遇改善加算が誕生⁉

ケアマネ不足については、2019年度に1事業所あたりの常勤換算人数が大幅に減少した後、やや回復はしたものの頭打ちの状態が続いています。問題は、そうした中でも第1号被保険者の高齢化によって利用者数は伸び続け、一方で居宅介護支援事業所の請求事業所数は減少傾向にあることです。

2022年度の居宅介護支援の実受給者数は、対前年度比で10.4万人の増加(伸び率で2.8%)。一方、請求事業所数(介護予防支援を除く)は2022年4月時点で、対前年比480件以上減少しています。この状況が続けば、ケアマネ1人あたりの担当件数も、2024年度にはさらに高まることが予想されます。

こうした予測を受け、居宅ケアマネになる人を増やすために、処遇改善を求める声が高まっています。具体的には、賃金アップを可能にするための居宅介護支援の基本報酬増、そして処遇改善加算の居宅ケアマネへの適用などです。特に、居宅ケアマネを対象とした新たな処遇改善加算の創設を求める提言は団体ヒアリングでも上がり、厚労省としても無視できないという認識は高まっているでしょう。今のところ、処遇改善加算の創設が実現される可能性は大きいと言えそうです。

施設・居住系のケアマネは含まれるのか?

ただし、注意したいことが。それは、ケアマネに処遇改善加算を適用するとして、「居宅ケアマネ」だけに留めるのかという点です。

たとえば、認知症GHでは、事業所内でケアマネ配置が義務づけられていますが、その「担い手不足」が見込まれることへの懸念が示されています(日本認知症GH協会のヒアリングより)。認知症GHの配置ケアマネ数(実数)は、ケアマネ全体の約8%ですが、介護保険施設や特定施設、小規模多機能型など「居宅ケアマネ以外」の人数をトータルすると、ケアマネ全体の約3割に達しています。

つまり、ケアマネ不足が深刻なのは居宅ケアマネだけでなく施設・居住・小多機系でも同様であり、居宅ケアマネとの間の「人材の取り合い」が常に生じる環境にあるわけです。

もちろん、特定処遇改善加算やベースアップ等支援加算は、介護職員以外にも配分可能です。しかし、その恩恵は限られます。仮に居宅ケアマネだけに新たに処遇改善加算を設けるとなれば、賃金状況が逆転するかもしれません。「ケアマネになりたい」というすそ野が拡大されない限り、今度は居宅以外でのケアマネ不足が深刻化することになります。

対象は「居宅ケアマネのみ」となった場合…

これを防ぐには、居宅とそれ以外の事業所にかかわらず、新たな処遇改善加算をケアマネという職種全体に適用することです(もちろん、加算率は居宅の方を高くすることが考えられます)。ただし、仮に改定率の引き上げが限られるとすれば、厚労省としても新たな処遇改善加算をケアマネ全体に広げることには、二の足を踏むことになるかもしれません。

もし「居宅のケアマネだけ」ということになれば、施設・居住・小多機系の事業者団体が想定する以上に「ケアマネ確保」が難しくなることが予想されます。先の日本認知症GH協会などは、GHのケアマネについて「兼務可能な範囲を拡大する」といった要望を出していますが、数年先にはそれだけではカバーできなくなる可能性もあります。

そこで浮上するかもしれないのが、施設・居住・小多機系のケアマネジメントを「外部の居宅ケアマネに委託する」という案です。つまり、ケアマネが十分に確保できない施設・事業所のケアマネジメントを、居宅のケアマネが担う余地を設けるというわけです。

処遇改善とともに進む「実務の再編」に注意

もちろん「次の改定で」というわけではなく、あくまで2027年度以降の将来的な論点となるでしょう。しかし、ケアマネ人材全体のバランスがとりにくい状況が生じるとなれば、居宅ケアマネの業務範囲を再編させるという議論は早晩浮上することになりそうです。

そうなると、一気にカギとなってくるのが、今回のヒアリングでも提唱されているIoTやAIを活用した場合のさまざまな制度上の緩和策です。ヒアリングでは、IoT(各種センサー等)に活用による訪問回数の低減や逓減制のさらなる上限緩和、ケアプラン作成支援AIを活用した場合の特定事業所加算における主任ケアマネの配置要件緩和などがあがっています。提案を聞く側としては、現状の居宅ケアマネジメントの範囲で頭を巡らしがちですが、先に述べた「業務範囲の再編」が行われるとなれば、受け止め方も変わってきます。

ちなみに、居宅ケアマネの業務範囲については、施設・居住・小多機系のケアマネジメントをどうするかという論点に加え、一部で行なわれている仕事と介護の両立支援における企業支援、その他の他法他制度にかかる施策への協力など、さまざまな実務への居宅ケアマネのかかわり方が課題となっています。

ケアマネの処遇改善加算が創設され、テクノロジー活用による実務緩和が進むとして、その先にある「ケアマネ実務の再編」という流れを同時に見定めることが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。