2024年度改定に向けた議論で、個別サービスの改定の方向案が示されています。通所介護で注目が集まるのが、「入浴介助加算」のあり方でしょう。2021年度改定で2区分となった同加算ですが、2024年度にどう見直されるのか。今改革案の課題とともに掘り下げます。
加算I単位の「単純引上げ」が難しい背景
2021年度改定では、入浴介助加算IIが誕生したことに加え、従来要件となる加算Iの報酬が引き下げられました。区分IIは、「居宅の浴室環境の評価・整備」や「居宅の浴室環境を踏まえた入浴計画の作成」などの新要件がハードルとなり、事業所ベースの算定率が通所介護で12.2%、地域密着型で7.5%と低い数字にとどまります。結果として、大半の事業所で入浴介助に関して実質減算となっています。
コロナ禍では、報酬上の3%特例等があったものの、2021年度決算は対前年度比で大幅なマイナスに。加えて、その後の燃料費等の高騰で、事業所の入浴コストが加算に見合わなくなっています。事業所としては、基本報酬のアップはもちろん、算定率が通所介護で9割を超える入浴介助加算Iの単位引き上げを望んでいて、これは自然の流れと言えます。
厚労省としても、(2021年度以前のレベルに戻すのか、さらにアップを図るのは別として)加算Iの単位引き上げは視野に入っているでしょう。問題は、要件をそのままに「単純に引き上げる」となれば、2021年度改定の「引下げ判断」が適切だったのかどうかが問われてしまうことです。管轄省庁としては、結果的に「判断ミス」を問われるような改定はしたくないというのが本音でしょう。
「引上げ」の適切な根拠が模索された結果…
そこで、今回区分Iの新たな要件が提案されたという見方ができます。改めて要件を確認すると「入浴介助の技術として求められる研修内容を算定要件に組み込む」というもの。
これを設定することで、「2021年度改定以前よりも、サービスの質向上に寄与する」ことになります。つまり、「単位の引き上げで生じる『保険料の上昇』に見合ったサービスの質向上」という名目が立つわけです。
確かに入浴介助における介護ミスは、他の介護事故以上に重大な結果(転倒や溺水のほか、バイタルチェックが十分でないことによる体調不良など含む)が生じがちです。それゆえに、区分I算定事業所でも5割以上が上記の研修を実施しています。
利用者の「安全性の確保」はサービス提供側の重大な責務の1つ。それを担保するしくみを設ける、しかも、すでに5割以上の事業所が実施している──となれば、それは「単価引き上げ」の適切な根拠と位置づけやすくなります。施策側の「判断ミス」というネガティブな事情も前面に出にくくなるわけです。
「入浴介助」から撤退する事業者が急増も?
一方で、先の研修実施について、「未実施」が3~4割という数字も決して少なくありません。5分の2近くの事業所が「未実施」の中で、この要件組み入れを強行すれば、「コスト面(研修をはじめ育成のコスト)から利用者の入浴介助そのものを行なわない」という事業所が急増する恐れもあります。
コスト面で「安全性の確保」を証明する手段が持てない、だからニーズに対応できない──これは、事業者だけの責任でしょうか。むしろ、利用者からすれば、人材育成や安全確保にかかる十分なコストを担保できない制度上の問題と映るのではないでしょうか。
近年の介護保険制度の改革を見ても、一定の研修等を新たに打ち出し、それを現場に課すという手法が目立ちます。もちろん、現場の知見を吸い上げて蓄積し、それを新たな研修として体系化することは必要です。しかし、それを制度上で「現場に課す」というからには、着実に「現場が受け入れられる」だけの環境を整えるのが国の責務のはずです。
そのあたりが後回しにされてしまえば、それ自体が新たな「判断ミス」となって、次の改定で再び論点となるのは確実です。「判断ミス」を補うための「判断ミス」という悪循環が生じていないのかに、注意が必要です。
そもそも入浴ケアはどう評価すべきなのか?
そもそも、通所での入浴介助については、もう少し原点に立ち返って評価のあり方を考え直す時期に来ているのかもしれません。たとえば、特養ホームの基準上の留意事項では、入浴について「単に身体の清潔を維持するだけでなく、入居者が精神的に快適な生活を営むうえでも重要なもの」と位置づけています。QOL向上の目的が明記されているわけです。
この考え方を通所系サービスに反映させるなら、「通所での入浴介助により、在宅での多様な生活状況がどのように改善するか」という視点を出発点とすべきでしょう。たとえば、週2回の通所での入浴により、在宅でのADL向上も図れるといった知見が蓄積できれば、入浴介助加算にかかる評価のあり方も根本から変わってくるかもしれません。
リハビリ・口腔・栄養にかかる一体的取組みが議論されていますが、入浴ケア・個別機能訓練・生活機能向上の一体的取組みという考え方も、科学的根拠のもとに構築できる可能性があります。そうした「総合的な取組みの中での入浴ケアの位置づけ」が確立できれば、基本報酬という土台をどこまで厚くするかという議論の道筋も開かれるでしょう。
「入浴」という部分だけを切り取り、そこに要件を積み重ねるのではなく、人の生活という総体を見てケアを評価すること。これは、報酬体系の簡素化にもつながる課題です。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。