10月23日の介護給付費分科会では、小規模多機能型サービスの改革の方向案が示されました。総合マネジメント体制強化加算の算定率が約9割にのぼることから、基本報酬に包括化する案が出ています。それと同時に示されたのが、地域包括ケアの推進と地域共生社会の実現に資する新たな評価です。
課題となっている「居宅ケアマネのかかわり」
第1クールの議論では、分科会内で以下のような意見が出ていました。それは、居宅の利用者が小規模多機能型(以下、小多機)を利用するにあたり、「ケアマネジメントの担当が居宅ケアマネから小多機のケアマネへの変更になる」ことにあたっての課題です。
具体的には、ケアマネが交代することへの抵抗感から「小多機の利用に至らない」というケースがあることです。そこで、小多機の利用を開始するにあたり、「居宅ケアマネとの関係系を維持できる運用」や「居宅ケアマネと小多機のケアマネの選択を可能にすること」などが提案されていました。
居宅のケアマネとしては、引き続き利用者の担当を担うことによるメリットとデメリットが気になるでしょう。メリットとしては、利用者との関係性の継続に加え、何らかの報酬が一定程度発生すること。一方、デメリットとしては、継続する実務と報酬のバランスがとれない恐れがあること。小多機という柔軟対応がベースとなるサービスのケアマネジメントを、外部のケアマネが本当に担えるのかという懸念を抱く人もいるでしょう。
厚労省提案の新評価が求める4つの取組み
ただし、先の意見に対し、厚労省側は明確な方向案を示していません。一方で打ち出されたのが、冒頭で述べた「総合マネジメント体制強化加算」を基本報酬に包含しつつ、「地域包括ケアの推進と地域共生社会の実現に資する取組み」への評価を設けることです。
この新評価ですが、具体的には、以下のようになっています。(1)利用者と関わりのある地域資源の状況を把握すること。(2)そのうえで、多様な主体が提供する生活支援サービスを含むケアプランを作成すること。(3)認知症の人の積極的な受入れや人材育成に取り組むこと。(4)地域の多様な主体と協働した交流の場の拠点づくりに取り組むこと、などです。
注意したいのは(1)です。利用者と関わりのある地域資源の把握となった場合、利用者の「地域でしてきた生活」にかかる詳細な情報を得ることが必要です。居宅ケアマネからの情報提供も不可欠になるでしょう。
しかし、居宅ケアマネ側は、2021年度改定で小多機との連携加算が「報酬体系の簡素化」の目的で廃止されています。利用者の状態等にかかる情報提供はなされるとしても、「地域資源」にかかる情報等が加わるとなれば、居宅ケアマネには大きな負担となりかねません。
自治体判断で、居宅ケアマネの関与を規定?
そうなると、ここで小多機事業所と居宅ケアマネの関係を再編するという案が出てくる可能性があります。実は、その布石と思われる事例が当日の資料で上がっています。
ある自治体ケースですが、モデル事業を経て、市内の全小多機に包括のブランチ兼地域福祉コーディネーターを配置したというものです。一見、居宅ケアマネには関係ない話ですが、注意したいのは、地域の多様な機関(包括や行政など)が深く関与している点です。
こうした体制を自治体判断で小多機に組み入れていくとすれば、その判断の中に、居宅の利用者を小多機が受け入れる場合に「居宅ケアマネがそのままケアマネジメントを担当する」という特例が誕生する可能性があります。仮にそうなった場合、小多機の新たな評価加算の増収分で、居宅介護支援に委託費を支払うというしくみも考えられるでしょう。
今後の総合事業改革との関連にも注意を
もう1つ気になるのが、先の新評価における④の取組み「地域の多様な主体と協働した交流の場の拠点づくり」です。連想されるのは、介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)ではないでしょうか。
現在、厚労省が進めている「総合事業の充実に向けた検討会」では、2027年度に向けた総合事業改革の骨子案を示しています。その中では、「地域の多様な主体が自己の活動の一環として総合事業に取組みやすくなるための方策の拡充」をかかげています。
そこで検討されているのが、市町村のアレンジによる多様なサービスモデルや、地域の多様な主体が総合事業に参画しやすくなる枠組みです。たとえば、地域の多様な主体が小多機と協働して「地域住民と小多機の利用者の交流の場」を設けるとするなら、(これも自治体判断になりますが)制度上で総合事業の一環として位置づけられるかもしれません。
また、交流する地域住民が要介護者となった時、そのまま小多機の利用者としてなじみやすくなる(小多機利用へとスムーズにつながる)という狙いもうかがえます。小多機側としては、地域交流を推進する中で「顧客確保」というインセンティブも働くわけです。
ただし、重要なのは「小多機ならではの認知症ケアの効果を上げること」にあるのは言うまでもありません。総合マネジメント体制強化加算に代わる新たな評価が、本来の小多機の機能を本当に底上げするのか。今後の具体的な制度設定に注意することが必要です。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。