「生産性向上」に評価加算が誕生⁉ 気になる「効果」データのとり方など

次期改定の主要テーマの1つである「介護現場の生産性の向上」ですが、厚労省が示した改革案で「新たな評価加算」が打ち出されました。従来の人員配置以外の体制(テクノロジー活用や介護助手活用など)とその効果に着目する点で、極めて大胆な改革といえます。

厚労省が示した「3階建て」の改革案

厚労省が示した改革案では、入所・泊まり(短期入所系)・居住系サービスを対象に、いくつかの段階によるしくみを想定しています。

I.土台は、基準上で新たな義務を設けたこと。具体的には、「利用者の安全およびケアの質の確保、職員の負担を軽減するための対策を検討する委員会」の開催です(3年の経過措置を想定)。前回改定で、施設系に「見守り機器等の活用による人員基準の緩和」などが導入され、その際に安全体制確保の要件が定められました。今回の基準案はその1つです。

II.この「新たな義務化」を前提としたうえで、(1)一定の効果が期待されるテクノロジー機器を導入し、(2)生産性向上ガイドラインにもとづいた業務改善を継続的に行なっていること──これを要件に「新たな評価(加算)」を設けるとしています。(1)については、A.業務の効率化に資するもの、B.ケアの質の向上に資するもの、C.職員の負担の軽減に資するもののいずれか1つ。見守り機器やインカム、その他のICT機器などが想定されています。

III.上記の2つ(Iの基準とIIの算定要件)に上乗せする形で、以下の要件をクリアした場合の評価も提案されています。その要件とは、a.I・IIによる取組みの成果が確認されたこと、b.上記II-(1)の機器を3つとも導入すること、c.業務の明確化や見直し、介護助手の活用等を含む役割分担など生産性向上の取組みをパッケージで行なっていることです。

生産性向上に「アウトカム評価」を導入⁉

ここまでの改革案の組み立てを整理すると、以下のようになります。「Iで加算取得に向けた土台となる基準を設定(全施設・事業所に適用)」⇒「IIでテクノロジーの導入や生産性向上の取組みなどのプロセスを評価した『1階部分』の加算を導入」⇒「IIIでIIに上乗せされるプロセスを評価した『2階部分』の加算を導入」という具合です。

気になるのは、IIIにおいて「I・IIによる取組みの成果が確認されたこと」という要件が加わっていることです。「成果」を求めるということは、プロセスのみならずアウトカムも評価する加算と見ることができます。

さらに、アウトカムを評価するとなれば、客観的なデータが必要です。そこで、改革案では(IIも含めて)「業務改善やケアの質の向上等に関するデータの提供」も求めています。「データ提供」という要件から連想されるのは「LIFE対応加算」ですが、これに類似したしくみが想定されていると考えられます。

ち密すぎる制度設計に危うさも感じられる

ここまでのしくみをざっくりまとめると、「1階部分」の基準を設定し、「2階部分」のプロセスを評価した加算を設け、「3階部分」にアウトカム評価を含めた加算を設けるという具合になります。そして、「3階部分」のアウトカムに向けて、LIFE対応のようなデータ提供を要件に組み込むという構造です。

こうしてみると、制度設計そのものはかなりち密です。しかし、「生産性向上」という、これまで多くの現場が「客観的に評価した経験がないテーマ」で、いきなりこれだけのち密な制度を設計することに、違和感を覚える施設・事業所も多いのではないでしょうか。

具体的な要件設定を1つ間違えれば、机上の空論に終わってしまう危険もはらんでいます。「算定可能な施設・事業所だけ」の話ならともかく、設計の土台となる基準を加算算定の意向がない事業所・施設にも適用されます。それゆえ、ち密な設計が狙いとおりに機能しなければ、「現場の負担を増やしてまで行なう基準改定」への疑問は膨らみかねません。

「客観的データ」にバイアスがかかる可能性

たとえば、アウトカムに必要な客観的データを集めるとして、その評価は「何」をもって「誰」が行なうのでしょうか。たとえば、タイムスタディなどは客観的な数値は出るかもしれませんが、職員のモチベーションや心理的負担の変化を指標にすれば、そこにはさまざまなバイアスがかかりかねません。

モデル事業であるなら、モチベーションや心理的負担の変化はある程度フラットな状態で調査できるでしょう。しかし、こと「加算の算定」が加わってくるとなれば、施設・事業所内での「作為」が生じる懸念は付きまといます。これを防ぐには、第三者による外部評価が必要ですが、それも制度設計に組み込まれることになるのでしょうか。

もちろん、労働力人口の減少により、将来的に今以上の人材不足が進む可能性が高い中、国としては「今から思い切った仕掛けが必要」という強い意図はあるでしょう。厚労省としても、内閣府の規制改革推進会議や財務省に対し、ここで大胆な改革をアピールしておかなければ、将来的な改定率アップの折衝もおぼつかない──という意図もありそうです。

とはいえ、基準改定にまで踏み込んで一気に進めようという所に、施策側の焦りも垣間見えます。その焦りが、危うい構造の橋で現場に大河を渡らせることにならないかどうか。

橋の構造を鍛えるには、現場の同意を固めることが必要であり、そこには現場が実感できる処遇改善をセットとすることが不可欠です。今回の案が、本当に実現可能かどうか、現場の反応に注目が集まります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。