紆余曲折が続いた「給付と負担」の議論。 3つの改革で懸念される「利用者不在」

結論が先送りされていた「給付と負担」にかかる3つの改革ですが、2024年度予算の大臣折衝を経て当面の決着が図られました。ただし「2割負担者の拡大」は、一定の方向性を示したうえで、さらに最大3年後まで検討が継続されます。今回は、この3つの改革をめぐり現場も注意したいポイントを整理します。

2割負担の範囲は「2027年度前」まで先送り

まず、利用者からの問い合わせが増えそうな「2割負担者の拡大」ですが、冒頭でも述べたように最大3年、具体的には2027年度前までに結論を得ることになりました。「拡大」が決まれば、同年度から実施の可能性が大ですが、結論を出すタイミングは未定です。

ただし、今後検討を継続する際の「軸となる案」が、以下のように示されています。
(1)被保険者の所得分布等を踏まえ、「一定の負担上限額を設けなくても、負担増に対応できる利用者」に限って2割負担とする案。
(2)(1)よりも広い範囲の利用者を2割負担とする案。ただし、一定の負担上限を設ける(負担上限のあり方については、2028年度までに見直しの検討を行なう)という案。

注意したいのは、上記案の検討に際して「金融資産の保有状況等の反映のあり方」が、補足的なテーマにあげられていることです。金融資産の保有状況については、施設入所時等の補足給付で勘案されています。これを介護保険の利用者負担などにも広げることが、検討課題に含められました。今後の介護保険部会でも大きな紛糾材料となりそうです。

1号保険料の標準段階を「9」⇒「13」に

次に、1号保険料のあり方についてです。ご存じのとおり、保険料の国による標準段階を多段階化する改革です。多段階化の対象は高所得者なので、それにともない、高所得者の最高乗率の引き上げもテーマでした。

介護保険部会に報告された改革の内容は、現行「9段階」の標準段階を「13段階」まで拡大すること。そのうえで、上乗せされた「10~13段階」について、乗率を「1.7」から「1.9~2.4」に引き上げるとしています。すでに多くの保険者が、標準段階や最高乗率を超える設定をしている現状に合わせた改革です。

たとえば、最高乗率が「1.7」から「2.4」となった場合、第8期の月平均保険料6,014円をもとに計算すると、「約1万224円」から「約1万4,434円」に。月あたり約4,000円以上の引き上げとなるわけです。

もっとも、これは標準段階・乗率であり、高齢者の所得格差が拡大している現状では、保険者の中には、さらに多段階化・最高乗率引き上げに動く可能性もあるでしょう。保険者に対してはもちろん、ケアマネに対しても「なぜ、こんなに上がるのか」という問い合わせが増える可能性にも注意が必要です。

「所得再分配機能の強化」は理解されるか?

この1号保険料に関する見直しですが、国が高所得者の新設段階で乗率を引き上げた分、低所得者(1~3段階)の乗率は引下げとなります。これにより、国は「所得の再分配機能を強化する」とアピールしています。

一方で、1~3段階の大きな引き下げが実現できると見込んだうえで、公費による乗率引き下げを抑えることになりました。抑えた分は、現場従事者の処遇改善など介護にかかる社会保障の充実に活用するとしています。

この場合の「処遇改善」とは、補正予算で設定された2月からの処遇改善の補助金などが想定されます。もっとも、高所得者の乗率引き上げによって可能になるわけで、結果的には高所得者の保険料引き上げ分が「処遇改善に回された」と見ることもできるでしょう。

このあたりの制度設計は、被保険者にとって分かりにくいかもしれません。それゆえに、保険料が大幅に上がることについて、保険者に対し「納得のいく説明がほしい」という問い合わせも増えそうです。保険者としては、対応に苦慮する場面も増えそうです。

多床室の室料負担。対象類型を整理すると…

もう1つは、老健および介護医療院の多床室への室料負担の発生です。こちらは、特養と同様に「日常生活を送るための施設となっているか」、「実態として死亡退所が多く、事実上の生活の場となっているか」という観点から、対象の絞り込みが行われました。

最終的には、(1)介護医療院であればII型(老健を参考に人員基準等を設定した類型)、(2)老健であれば「その他型」「療養(療養病床からの移行)型」が対象に。なお、いずれも1人あたり居室面積が8㎡以上に限定されます。

このように、制度上の施設類型によって整理されたわけですが、やはり利用者にとっては「分かりにくさ」が先に立ちがちです。たとえば、地域によって類型に偏りがあり、「そこだけしか入れない」となれば、利用者にとっては選択の余地なく負担増となるわけです。

国は、すでに入所している人などへの周知といった観点から、施行は2025年8月からとしています。負担増は月8,000円相当ですが、低所得者には補足給付によって負担が増加しないしくみにも配慮しています。

とはいえ、利用者にとって分かりやすいしくみなのかどうかが問われることに変わりありません。保険者も含め、現場だけが説明に苦心するという状況が強まることは、介護保険運営にもさまざまな影響をもたらしかねません。今後も「給付と負担」のさまざまな論点が浮上するとして、利用者の視点に立った制度設計ができるかどうか、国が責任をもって説明責任を果たせるかが重要となります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。