
2024年度補正予算に続き、2025年度本予算の審議が間もなく始まります。注目したい新規の予算項目の1つが、「JRAT体制整備事業」です。JRATとは「大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会」のこと。被災地における医療・福祉系活動の1つとして、BCP策定時にも頭に入れる必要があります。
災害発生時にはさまざまなチームが現地へ
政府の地震調査委員会が、南海トラフの大地震の今後30年以内の発生確率を80%に引き上げるなど、普段から大地震への備えを求める機運が高まっています。ケアマネとしても、仮に地元で大規模地震が発生した場合を想定しつつ、いざという時の対応の質を上げることのできるBCP策定が求められます。
そのBCP策定については、2024年度改定で未策定時の減算規定が設けられました。居宅介護支援は2025年3月末まで経過措置がありますが、未策定の事業所としては駆け込み作業に追われているのではないでしょうか。
自然災害BCPでは、地域の多機関等との平時からの連携体制構築や、いざ災害が発生した場合の連携の進め方なども記さなければなりません。被災地にはさまざまな支援チームも入りますが、各チームの役割や特性などを押さえたうえで、具体的な連携のあり方などを確認しつつ、各状況を想定したシミュレーションも進めておくことが必要です。
たとえば、冒頭で述べた「JRAT」というチームの役割は何か、連携に際してどのような情報共有が必要になるのか。そのあたりもきちんと押さえたうえで、地域のリハビリ等の職能団体との合同研修なども望まれます。
医療系のDMAT、介護福祉系のDWAT…
ここで、各職能による支援チームには何があるのかを改めて整理しておきましょう。
ご存じの通り、医療でいえば厚労省が管轄する「DMAT(災害派遣医療チーム)」や、都道府県による「DMAT-L(災害派遣医療チームのローカル版)」があります。DMATについては、医師、看護師、(他の医療職による)業務調整員から構成され、都道府県の要請で災害発生直後のおおむね48時間以内に現場での救助・救護活動を行ないます。
また、DMATの活動前後で、被災者への継続的な健康管理などを担うチームにJMATもあります。日本医師会が派遣するチームで、地域医療の再生を担うという位置づけです。
このDMATやJMATの「介護・福祉版」となるのが、「DWAT(災害派遣福祉チーム)」です。これは東日本大震災後の2012年に設けられた災害福祉支援ネットワーク構築推進等事業にもとづき、各都道府県が整備しています。なお、地域によってDCATという呼称を採用しているケースもあります。
災害関連死なども大きな課題となる中で…
この他、精神医療ニーズに対応するDPAT(災害派遣精神医療チーム)や、昨今課題となっている災害関連死を含む二次健康被害の防止に焦点を当てたDHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)など、大規模災害に際しては、国や自治体、業界・職能団体によるさまざまな支援チームが活動しています。
冒頭で述べたJRATもその1つで、日本リハビリ医学会や日本PT・OT・STの各協会などリハビリ関連の13団体が参画し、災害リハビリ支援チームを派遣しています。同チームにより、被災地での高齢者等の生活不活性発病などを防ぐリハビリ支援を行ないます。
2025年度の予算案にJRAT体制整備が組み込まれたことで、都道府県・市町村の地域防災計画などでも、災害発生時を想定した各種支援ネットワークでの「リハビリ支援」の位置づけが強化されることになりそうです。
このように、地域での災害時の支援体制は刻々と進化しつつあります。他サービスとの情報連携で重要な立場となるケアマネとしても、地域防災計画や地域ネットワークの再編状況について情報収集を怠らないことが重要です。そのうえで、BCPの実効性を高めるための見直しに反映させることが求められます。
どの時点で、誰と、どんな情報を共有する?
たとえば、多くの地域防災計画では、災害発生からの時間経過で被災者にどのようなリスクやニーズが発生するかがチャートで示されています。各事業所が策定する自然災害のBCPでも、「平時」からの取組みはもちろん、「災害発生時」を起点とした時系列での取組みについて、現場のケアマネが分かりやすい形でビジュアル化することが求められます。
その時間経過のチャート等に沿って、どの段階でどの支援チームが現地(避難所だけでなく居宅も含む)に入ってくるのか。各チームの役割は何か。どのような職種で構成されているのか。その時々のチーム活動において共有すべき(チームに提供する、あるいは受け取る)情報にはどのようなものがあるか。
こうした対チーム連携を見すえた実務を整理したうえで、BCPにもとづく定期的な研修・訓練に反映させることも必要でしょう。たとえば、DMATやJMATによって利用者の医療情報が更新されたとして、DWAT・DCATやJRATとの共有情報にどのように影響するのか。ケアマネの専門性も活かしつつ、平時からのシミュレーションが重要です。
「いざという時」を想定した広い視野を備えつつ、非常時に自分たちの専門性をどう活かすべきなのかを日頃から鍛えたいものです。
【参考資料】

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。