
2027年度の介護保険制度見直しに向けた議論が本格的にスタートしましたが、一方で医療に関しては、期中改定も含めて直近での改革が進行中です。介護保険のサービス提供や利用者にどのような影響がおよぶでしょうか。
2027年度予算案での高額療養費見直し
医療制度に関して、現在大きな話題となっているのが、2027年度予算案で示された高額療養費制度の見直しです。言い換えれば、医療費の自己負担限度額の引き上げです。
これは、10年前から平均給与が伸びていることを勘案したのに加え、全世代の保険料負担を軽減することが目的です。とはいえ、治療を要する慢性疾患等が多い要介護高齢者にとっては、物価上昇で日常の出費が増える中での負担限度額上昇は影響が大きいでしょう。
その負担限度額ですが、住民税非課税区分でも+2.7%(70歳以上の外来特例は据え置き)、その他の区分では、所得区分を細分化したうえで+5~15%の引き上げとなります。
最初の引き上げは2025年8月からで、その後に所得区分の細分化による引上げが2026年8月、2027年8月と2段階で行われる予定です。利用者にとっては、介護保険の利用者負担の引き上げ(ケアマネジメントへの利用者負担導入も含む)の議論の行方を待たずして、医療に関しての負担増が施行されるスケジュールとなります。介護保険の利用者負担の議論が決着する時期には、医療をめぐる負担環境も変わっていることになります。
入院時の食費も昨年に続いて引き上げか⁉
加えて、今予算案で示されたのが、入院時の食事療養費の基準額引き上げです。これにより、低所得者に対しては一定の配慮を行なうとしつつも、入院時の食費についての患者負担も引き上げられる予定です。
入院時の食費基準額については、2024年6月にも引上げられました(3~5月は重点支援地方交付金および地域医療介護総合確保基金で対応)。その際の患者負担は、所得区分に応じて一食10~30円の引き上げでした。
これも背景には、物価高騰によって食材料費にかかる医療機関側のコストが上がっているという事情があります。問題はやはり、日常的に物価高騰の影響を受けている患者側の負担感がどうなるかという点です。
今回の負担額引き上げは、2024年6月より若干抑えられることになりそうですが、立て続けの引き上げとなれば、患者の負担感も少しずつ増しそうです。高額療養費にかかる自己負担が上がり、入院時の食費も上がるとなれば、患者が入院した場合の世帯家計が少しずつ切り詰められることも考えられます。
高齢者夫婦世帯の状況を想定してみると…
たとえば、高齢者夫婦世帯を想定してみましょう。夫婦のどちらかの健康状態が悪化して、入院に至ったとします。70歳以上で通院している時点では外来特例が適用されますが、入院となれば食費も含めて負担増の影響を受けます。夫婦世帯のもう一方の高齢者としては、諸物価高騰もあって、家での食費や光熱水費を抑えようとするかもしれません。
問題は、入院した人が在宅で介護保険を使っていたとして、もう一方の高齢者が元気な状態であれば、利用者が入院の時点でケアマネジメントから除外される点です。ケアマネとしては、もう一方の高齢者の状態も気になりますが、実務面でできることは限られます。
たとえば、利用者の退院が近づいて、(退院後の担当継続の流れで)アセスメントを行なう際に、「家族の介護力」という観点から状況を把握することはあるかもしれません。しかし、それでも介護者側となる高齢者の健康状態がどうなっているかなどを推し量ることには、現状の制度範囲では限界があるでしょう。
もし、もう一方の高齢者の状態把握の時点で、その人の健康も悪化し、要介護リスクも高まっているとなれば、「要介護認定を勧める」ことも必要になるかもしれません。当然ながら家族の介護力は前提にできず、入院している人はそのまま施設等の入所・入居を見すえ、もう一方の高齢者には居宅サービスを調整するという流れも想定されることになります。
利用者入院中の家族状況の把握をどうする?
こうして考えると、物価上昇やそれにともなう各種負担増という時代には、ケアマネジメントのあり方も今まで以上に想定される状況の範囲を広げることが求められそうです。
もちろん、「物価上昇の前から、高齢者夫婦世帯(あるいは親と独身の子どもで、ともに高齢期に差し掛かっているケースなど)については、介護者側の状態悪化も常に見すえている」というケアマネも多いでしょう。
問題は、常日頃から想定はしていても、今の時代はその現実化するスピードが速まったり、想定を超える状況(家族側が倒れたり、健康状態が急速に悪化するなど)が突然現れやすくなっている点です。そうなると、事業所として「日頃のケアマネジメントのあり方」をブラッシュアップする必要も出てきます。
昨今の物価高騰は、あらゆる世代で多くの人々の生活を揺るがしています。そうした時代には、支援者側の対応努力だけで「課題の早期察知および早期対応」を進めることには、そうしても限界が生じやすくなります。
たとえば、高齢者夫婦世帯であれば、利用者が入院中でもその家族の状態把握の継続を介護給付の特例とするなど、時代に合わせた制度の見直しも求められそうです。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。