
2025年の通常国会がスタートし、予算審議のほか、社会保障分野にかかる各種法案の審議も行なわれます。先の衆院選で与党が過半数割れとなる中、注目されるのが野党の提出した介護関連の2つの法案です。
いずれも2024年は廃案。今回こその再提出
野党提出の2法案は、以下の通り。1つが「訪問介護緊急支援法」、もう1つが「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案(介護従事者等処遇改善法案)」です。
いずれも2024年の通常国会で、野党の立憲民主党が提出したものですが、この時には審議未了のまま廃案となりました。今国会で再提出となったわけですが、昨年と違うのは2024年10月の衆議院選挙で与党の議席が過半数を割り込んだことです。
これを機に、今回は立憲民主党だけでなく、他の野党との共同提出という形が取られました。両法案とも共同する相手は国民民主党、そして後者の介護従事者等処遇改善法案については、日本維新の会も提出に加わっています。今後は他の野党の賛同も得る努力をしながら審議にのぞむことになります。
今通常国会は、会期の延長がなければ6月22日まで(直後に参議院選挙があります)。介護現場の厳しさが募る中、早期の成立に向け事態が動くのかどうかに注目が集まります。
訪問介護に基本報酬引下げ分+αの補助金を
まず、2法案の具体的な中身に着目します。
前者の訪問介護緊急支援法案は、訪問介護事業者の倒産件数が過去最多となる中で、事業者への緊急支援を行なうものです。具体的には、以下の2つが軸となります。
A.2024年度改定での基本報酬引下げが現場にもたらしている影響を踏まえ、2027年度を待たずに期中改定を行なうこと。
B.Aの期中改定までの間、サービスが安定的に提供できるよう、公費による補助金(訪問介護事業支援金)を支給すること。
Bについては、2024年度の訪問介護の基本報酬引下げ率約2.4%に相当する金額に加え、全体の改定率1.59%を上乗せした金額が想定されています。予算規模は約357億円です。なお、この支援金については差し押さえ禁止の対象とするなどの配慮もなされます。
当面、従事者1人あたり月1万円分の賃金増
一方、後者の「介護従事者等処遇改善法案」ですが、これは介護・障害福祉従事者(居宅のケアマネも含まれます)の月額賃金が全産業平均と比較して約7万円低い状況を鑑みて、現行の国の処遇改善策に上乗せする形で以下のような措置を行なうものです。
(1)従事者1人あたり月平均1万円の賃金増を想定した助成金を、事業者に支給すること。
(2)介護報酬等を決めるにあたって、すべての事業者の安定的なサービス提供と、従事者の賃金改善等による将来にわたる職業生活の安定等に資するように配慮すること。
(1)については、全産業の平均賃金との格差が月7万円という状況下で、「月あたり1万円のアップでは少ない」という見方もあるでしょう。この点について立憲民主党は、あくまで「取り急ぎ」の支給であるとして、「最終的には全産業平均まで上げたい」としています。
補助金・助成金だけではない重要なポイント
厳しい状況に置かれている介護現場としては、両法案ともに、公費による補助金・助成金にまずは注目が集まりがちです。確かに緊急的な支援策は不可欠で、先の補正予算による支援策に上乗せされれば、現場にとっては一定の「つなぎ」となるでしょう。
ただし、長期的に見た場合の効果を見すえるのなら、やはり前者では「期中改定」の実施、後者であれば「今後の報酬改定」のあり方が重要ポイントとなります。
特に後者に関して、これまでは介護報酬のあり方を定める際に、国会制定法で「縛り」を設けるしくみはありませんでした。介護報酬にかかる基準は、あくまで「社会保障審議会の意見」を聴いたうえで、政令・省令によって定められることにとどまっています。
これに対し、政令・省令をしのぐ効力を持つ国会制定法で、「従事者の職業生活の安定」が組み込まれたことは、(文言上は抽象的とはいえ)介護給付費分科会等の議論を強く「縛る」ことになります。どんな案が出ても、それが「従事者の職業生活の安定」に寄与しなければ、法律上は無効となるわけです。
衆参の「ねじれ」の中で成立の見込みは?
では、今回の2法案の成立する見込みはどうでしょうか。現状の衆議院の会派・党派別議員数を見れば、他の野党の賛同次第ではあるものの、可決される可能性は高いでしょう。
問題は参議院での議決です。現状、参議院は与党が過半数を占める「ねじれ」状態で、衆議院での可決法案が否決される可能性もあります。その場合、再び衆議院で、今度は出席議員の3分の2以上の可決で成立ですが、現状の議員数では成立が厳しくなります。
衆参の両院協議会を開催して意思の統一を図ることもあります。ただし、この2法案にそこまで踏み込んだ対応が取られるかどうかは、現場の「成立を後押しする声」をどれだけ上げられるかがポイントになりそうです。
なお、通常国会直後に参議院選挙があることを考えれば、やはり現場からの声の上げ方によって参院議員側の動向が左右される可能性もあります。ただし、法案修正をかけたうえで可決という可能性もあり、そのあたりは国会動向をじっくり見極める必要があります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。