
2023年度の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議の資料がアップされ、「別冊」として2024年度改定の省令・告示等の通知案も示されました。あくまで「案」であり、「追って通知する」という内容も散見されます。
「オンラインでのモニタリング」の狙いは?
ここではケアマネ関連の改定から、新たに基準化された「他のサービス事業所との連携によるモニタリング」について取り上げます。
「オンラインでのモニタリング」が可能になることで、ケアマネの業務負担軽減の一環という見方もあります。とはいえ、要件の複雑さなどにより、現場からは「あまり負担軽減にはならないのでは」という声も聞かれます。
この改定について、厚労省の狙いはどこにあるのでしょうか。モニタリングに際しての「他のサービス事業所との連携」を基準に位置づけることで、何が目指されているのかを、今回の告示案から読み解きます。
まずは、基準省令にかかる通知案の中から、該当箇所をチェックしましょう。注目したいのは、オンラインによるモニタリングを実施するにあたっての留意事項です。大きく分けて5項目あり、昨年11月6日の対応案や、1月22日に公表された「改定事項」ではふれられていない内容を見ることもできます。ここでは、1、2、4、5を取り上げます。
利用者には文書で同意。主治医の合意も必要
第1は、オンラインによるモニタリングに関して「利用者の同意を得る」という点です。(オンライン・モニタリングの)具体的な実施方法を「懇切丁寧」に説明したうえで、「文書による同意」を求めています。
「懇切丁寧」という、行政文書としては抽象的な文言もさることながら、「文書による同意」となれば、その時点でケアマネにとっては少なからぬ実務増となります。
第2ですが、オンラインによるモニタリングの要件として「利用者の状態が安定していること」が問われます。その場合の判断ですが、サ担会議での合意に向けて、今通知案では「主治医等による医学的な観点から意見」なども踏まえるとしています。
取り上げる順番は前後しますが、5番目の留意事項として、主治医の合意について「利用者の通院時・訪問診療時の立会いによる意見照会」も可能としています。ただし、サ担会議での合意も含めて「合意に至るまでの過程を記録しておくこと」も必要」です。
利用者の状態にかかる記録というより、ケアマネ側の実務変更の根拠となる記録といえます。言い換えれば、実地指導等に応えるための記録という性格が色濃いかもしれません。
サービス担当者への「気遣い実務」も多い
重要なのは、4番目の留意事項です。「画面越しでは確認できない利用者の健康状態や住環境等の情報については、サービス事業所の担当者からの情報提供により補完する必要がある」とされています。実は、今改定の「本筋」はここにありそうです。
この点について、「サービス事業所の担当者の同意を得る」とともに、その担当者の負担とならないよう「情報収集を依頼する項目や情報量については留意が必要」としています。そのうえで、サービス事業所の担当者に情報収集を依頼するにあたり、「別途通知する『情報連携シート』を参考にする」とのことです。
ここまでサービス担当者に気を配らなければならず、しかも情報収集の項目をあらかじめ提示しておく必要もあるわけです。現場からは「自分で訪問してモニタリングした方が早い」という声も聞こえてきそうです。
厚労省は、どういう意図でこうした規定を設けたのでしょうか。将来的な居宅介護支援の生産性向上に向け、「日常的なICT活用の機会を増やしたい」ということもあるのでしょうか。2027年度改定では、居宅介護支援にも生産性向上にかかる基準や加算などが設けられるという可能性もあります。そのあたりを見すえて──という見方もできそうです。
カギはやはり「適切なケアマネジメント手法」
一方、先に述べた「本筋」から言えば、「サービス担当者による日々のモニタリング推進」が目指されていると考えるべきでしょう。チームケアでのモニタリング推進に向けて2027年度以降もさまざまな基準・報酬上のしくみを設けるとするなら、その「土台」をここで作っておくという狙いが浮かぶわけです。
ここで想起されるのが、やはり「適切なケアマネジメント手法」でしょう。厚労省が示した「適切なケアマネジメント手法」にかかるイメージ(2020年度版)では、サ担会議において「想定される変化を踏まえたモニタリングの視点・項目を関係者で共有し、観察および情報共有の方法について役割を分担」するという過程を示しています。まさに、先の4番目の留意事項に合致する内容です。
今改定では、こうした深読みをしないと厚労省の真の意図が見えにくいだけでなく、そのための解釈基準の発出も後手に回っています。厚労省としては、「目指すべき地点」のイメージはあるのでしょうが、どうもそれが伝わりにくく、現場が置いて行かれたまま右往左往しかねない状況が強まっています。
やや皮肉を込めれば、現場に生産性の向上などを求めるなら、施策立案側のこうした体質の改善から始めるべきではないでしょうか。現場の悶々とした時間はまだ続きそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。