政府が介護休業法等の改正案を提出。 野党は訪問介護への緊急支援法案など

2024年度改定が施行される中、介護保険のあり方をはじめ、国民の介護ニーズに対応する施策への注目はますます高まっています。たとえば、現在開催中の国会ではどのような法案が提出されているのでしょうか。内閣提出法だけでなく議員提出の法案にも注目します。

政府が提出したビジネスケアラー対策の法案

まず、政府が提出している法案ですが、育児・介護休業法等の改正案を取り上げます。いわゆるビジネスケアラーの介護離職リスクが高まる中、今法案ではケアラーを雇用する事業主への義務化措置などが目立ちます。

たとえば、従業者が40歳(2号被保険者の年齢)に達した時、介護休業制度やその他の両立支援制度について周知することを義務づけます。また、従業者が家族の介護に直面した旨を申し出た時に、事業主が介護休業制度等の利用の意向の確認もしなければなりません。その従業者の申し出に対し、事業主が不利益な扱いをすることは禁止されます。

その他、介護休暇について、これまで勤続6か月未満の従業者を労使協定で除外できるとした規定を廃止するとしています。さらに、事業主が講ずる両立支援の措置(努力義務)にテレワークも追加されています。

ヤングケアラーに対しての支援法案も

家族の介護を担うという点では、ヤングケアラーも大きな課題です。このヤングケアラーについては、政府が「子ども・若者育成支援推進法」の改正案を提出しています。

この法律は、子どもや若者の健やかな育成や彼らが社会生活を円滑に営むことができるよう、国や自治体による支援や取組みを定めたものです。いわば、子ども・若者の支援に関する基本法と言えるでしょう。

その対象となる子ども・若者に、「家族の介護、その他の日常生活上の世話を過度に行なっていると認められる」というケースが加えられました。いわゆるヤングケアラーが、子ども・若者支援の対象に明記されたわけです。

具体的な支援策としては、相談・助言、生活環境の改善、修学・就業の援助などが示されていますが、いずれも努力義務にとどまります。ただし、こうした基本法が国会で制定される意味は大きく、介護支援という立場からの厚労省の施策の加速も想定されます。

国民民主党はダブルケアラーの支援法案提出

ビジネスケアラー、ヤングケアラーにかかる法案が審議される一方、もう1つの課題として浮上しているのが育児と介護を同時に担う、いわゆるダブルケアラーの存在です。これについては、野党の国民民主党が議員立法で「育児・介護二重負担者の支援に関する施策の推進に関する法律案(以下、ダブルケアラー支援法案)」を参議院に提出しています。

法案の内容は、ダブルケアラーへの支援に関して国の責務等を定めたものです。まずは実態調査の定期実施とその公表を行なったうえで、支援のための必要な法制上・財政上の措置を講ずることを求めています。財政上の措置を法律で位置づけるということは、事業主の取組みや国民への周知のための広報などに関する予算措置を見すえているといえます。

注目したいのは、ダブルケアラーを雇用する事業主に対して、従業者への支援内容の公表を求めていること。さらに学校教育の現場でも、将来ダブルケアラーとなる可能性についての認識を深めるとしていることです。

立憲民主党は訪問介護への緊急支援法案

このように、さまざまな立場のケアラー(家族介護者)支援の「枠組み」を整える法案が出ているわけですが、問題は現場レベルで支援を担う資源が維持されるのかという点です。介護支援でいえば、地域のサービス資源がぜい弱になっていては、「枠組み」だけをいくら整えても、その効果は不十分となります。

たとえば、今改定で基本報酬が引下げとなった訪問介護などは、従事者不足の加速から資源不足が深刻化する懸念が高まっています。この点で注目したいのが、やはり野党の立憲民主党(および一部無所属議員)が提出した「訪問介護事業者に対する緊急の支援に関する法律案(以下、緊急支援法)」です。

この緊急支援法案の主要点は2つ。1つは、2027年度改定前の早い時期に、訪問介護にかかる報酬・基準改定を行なうこと。いわば「期中改定」を求めているわけです。もう1つは、その期中改定までの間、訪問介護事業者が安定的に運営できるよう補助金(訪問介護事業支援金)を支給するというものです。

立民党の介護等人材確保法案は一部修正で

ちなみに、今国会で立憲民主党は「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」も提出しています。これは、(1)介護・障害福祉従事者のさらなる賃金改善を図るための助成金を支給すること。(2)介護報酬を定める際に、従事者の職業生活の安定等に資するよう配慮することを定めています。

特に(2)は、介護報酬の設定に際し、「従事者に対する配慮」を明記した点がポイントです。報酬改定の議論が現場軽視で流されないよう、「従事者の生活を常に考慮しなければならない」という縛りを設けることになります。

同法案は以前から同党が国会に提出していましたが、前の法案の一部が加筆されて再提出されました。加えられたのは、他業界の賃金水準と同程度のものにするための施策の検討と必要な措置を政府に求めたことです。これは、物価上昇にともなって他産業の賃金水準が上がっていることを考慮したものです。

このように、今国会では各方面から多様な法案が出され、厚労委員会での審議が続いています。審議の様子はネット上でアーカイブによって見ることができるので、議論の模様をぜひチェックしていただきたいものです。

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。