ケアマネ更新研修の改革ヒントに⁉ 2022年の教職員免許の更新制廃止の話


厚労省で「ケアマネジメントにかかる諸課題に関する検討会」が開かれています。ケアマネの業務のあり方(業務範囲等)などの諸課題が示される中、現場の注目点の1つが「法定研修のあり方」でしょう。特に各種更新研修にかかる時間や費用の問題は、次の制度改正に向けて大きな議論となるのは確実です。

検討会ヒアリングでの法定研修への提言

5月9日に開催された第2回検討会では、業界団体や社会福祉法人からのヒアリングが行われました。ヒアリング対象団体の1つである一般社団法人・介護事業者連盟(会員数:3万1009事業所)からは、法定研修のあり方についての提言が示されています。

ポイントは、以下の3つに関する提言です。第1に、研修講師の能力差などを課題とした「講師に対する評価制度の導入と高評価講師の活用」。第2に、日々の業務に追われるケアマネに配慮した「開催頻度やカリキュラムの一部見直し、簡素化の検討」。第3に、「ケアマネに対する受講費用の補助」です。

このうち、受講費用の補助などはケアマネにとって痛切な課題の1つでしょう。一部自治体では先行して「全額補助」などの対策を打ち出しています。しかし、自治体財政などのよる格差が生じれば、ケアマネの地域偏在を進めかねません。やはり重要なのは、国よる補助のしくみであり、そうした施策を促すうえで注目される提言といえます。

更新研修の時間的負担への解決策はどこに?

ただし、研修にかかる時間的な負担という面では、今提言も開催頻度やカリキュラム見直しといった各論にとどまります。一部では、更新研修そのものの廃止は「非現実的」という意見も出ています。ただし、今後のケアマネの業務負担の状況によっては、「非現実的と言っていられない」という現場からの突き上げが強まることも考えられます。

そこで今回は、他省庁の話ではあるものの、議論がこじれれば、やがて比較対象にのぼってくるのではないかと思われる改革を取り上げましょう。それが、2022年7月より施行されている教職員免許法等の改正です。

これまで教職員の普通・特例免許状については10年ごとの有効期間が定められ、更新に際しては一定の講習を受けることが必要とされていました。それが、今改定により更新制に関する規定が削除されました。つまり、改正法の施行以降は、原則として有効期間の定めがなくなったことになります。

これは、教職員の多忙化や人材不足の状況などを鑑みたうえで、それに見合う更新講習の内容となっているのかが疑問視されたことが背景にあります。一概には言えませんが、ケアマネの現状と重なる部分があります。

教職員免許の更新制廃止から参考になること

ただし、この教職員免許の更新制の廃止の代わりに、新たに設けられたしくみがあります。それが、同時期の教育公務員特例法の改正によって誕生した「新たな研修」についての規定です(2023年4月施行)。

1つは、教員・校長の任命権者(教育委員会等)が、その教員等ごとの研修等に関する記録を作成すること。2つめは、その記録にもとづいて、指導助言者(やはり教育委員会等)が教員等に対して、資質向上に関する指導助言等を行なうことです。この指導・助言受けたうえで、教員等はその人に合った地域のさまざまな研修を受けることになります。

簡単に言えば、更新制を廃止した代わりに、(1)自主的にどれだけの、あるいはどのような研修を受けたかが管理され、(2)「あなたはこうした研修を受けるべきではないか」といった指導・助言がなされるというわけです。

受講状況の管理や指導・助言というプレッシャーが生じるという点では、完全に「自発的」な資質向上にあたるのかは疑問という見方もあるでしょう(指導に従わない場合の懲戒処分が生じる恐れもあります)。しかし、更新時期に縛られず、ある程度実務に沿った研修を選択できるという点で、ケアマネの更新研修のあり方のヒントになるかもしれません。

ケアマネの資質向上をどのように担保するか

もっとも、こうしたしくみを参考にするとして、上記の「教育委員会」にあたる「指導助言者」は、ケアマネの場合なら誰になるのかという課題は付きまといます。
たとえば、保険者となれば、地域のケアマネ全員に対応するキャパシティを確保できるのかが問題となります。包括が「包括的・継続的ケアマネジメント支援」の一環として手がけるとしても、業務負担の軽減が施策課題となっている現状で、研修状況の管理・助言にまで踏み込めるかといえば疑問が生じます。

となれば、現実的には、事業所単位で所属するケアマネ1人ひとりの資質・力量を把握したうえで、個別の研修計画を立てるということになるのかもしれません。現状では、特定事業所加算の要件の1つですが、これを事業所の運営上の責務と位置づけるわけです。

「適切なケアマネジメント手法」の普及を含め、ケアマネの資質向上に力点を置く厚労省が、果たして更新要件を事業者任せにするだろうか──という疑問は当然浮かぶでしょう。

しかし、ケアマネにとって更新研修が大きな負担となり、その効果にも懐疑的になる風潮が高まれば、少なくとも業界団体としては思い切った改革を提言する可能性は高まります。今後の検討会の行方を注視する中で、今回紹介した教職員の更新制改革などは、1つのヒントとして頭に入れてはどうでしょうか。

【関連リンク】

ケアマネ試験の見直しを求める声相次ぐ 厚労省検討会 受験要件の緩和や合格基準など論点 - ケアマネタイムス

【参考資料】

教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律の概要

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。