「何のため?」が揺らぐケアプラン検証。 現場の戸惑いに耳を傾けるべき

財務省の財政制度等審議会が示した建議で、介護保険改革案の1つに「生活援助サービスに関するケアプラン検証の見直し」が掲げられています。財務省側のプレッシャーが強まる中、現場の実務負担との兼ね合いで、ケアプラン検証のあり方が問われつつあります。

ケアプラン検証に関して財務省が示した課題

財務省審議会の建議では、(1)2018年度改定で導入された「利用回数の多い生活援助サービスに関する保険者への届出の義務化とケアプラン検証等の実施」、(2)2021年10月から実施されている「区分支給限度基準額の利用割合が7割以上+利用サービスのうち訪問介護が6割以上」のケースを取り上げています。

(1)については、「保険者への届出を避けるため、生活援助から身体介護へ切り替え」が指摘されている点を問題視。そのうえで、身体介護を含めた訪問介護全体の回数をもって、届出を義務化させることを提案しています。

また、(2)については、ケアプラン検証の範囲が広がった一方で、自治体(保険者)によって取組みに差があるデータを紹介。これを受けて、保険者ごとのケアプラン検証の取組み状況を定期的に把握し、より実効的な点検を行なうことで、サービス提供の適正化につなげていく必要性を強調しています。

「老計10号の改正」との兼ね合いにも注目

ただし、財務省側の問題提起には注意したい点があります。(1)については、やはり2018年度の通知改正で、「自立生活支援のための見守り的援助の明確化」が図られたことです。

いわゆる「老計10号の改正」ですが、サービス行為ごとの区分の1-6において、「利用者と一緒に手助けや声かけ、見守りをしながら行なう掃除、整理整頓」などが加わり、見守り的援助の範囲が広がりました。

それまで「明確化が図られていなかった(グレーゾーン)援助内容」が、身体介護として明確にされた点で、「適正なサービス評価」としての国のお墨付きが出たわけです。「生活援助から身体介護への切り替え」が生じるのは当然のことで、それ自体を問題にするのは筋違いでしょう(この点については、日本介護支援専門員協会の見解でもふれています)。

もし問題にするべき点があるとするなら、ケアプランで設定した「見守り的援助」と現場のヘルパーによる「サービス提供の実態」との乖離にあります。その乖離を適正化するのであれば、訪問介護事業所に対する指導・監査を焦点とするべきで、「ケアプラン検証のあり方」が論点となるテーマではありません。

保険者が抱く「ケアプラン検証」への違和感

(2)のケアプラン検証に関する保険者の取組みの差という課題ですが、示されたデータは、2023年3月に公表された「地域ケア会議等におけるケアプラン検証のあり方に関する調査研究事業」(2022年度老健事業)の報告書から引用されています。その引用データとは、「ケアプランに関する検証をどのような方法で行なっているか」という保険者への質問に対し、「市町村としてはまだ特段行なっていない」が35.7%に達しているという状況です。

これだけを見れば、確かに「ケアプラン検証に前向きでない保険者が一定程度見られる」ということになるでしょう。ただし、同報告書内で示されている「検証制度自体に関する問題点や懸念」についてのヒアリング調査を見ると、やや印象が変わってきます。

たとえば、「ケアマネがアセスメントを行ない、かつルール内で作成されたケアプランについて、助言は可能であるが指導までは難しく、保険者検証での是正に限界を感じる」というもの。また、「すでにサービスを利用している利用者のケアプランを点検しても、検証後サービス量を減らすようなことは利用者の理解が得られず、給付適正化の観点からも効果がない」という意見も見られます。

給付適正化とケアマネ資質向上は両立するか

さらに注目したいのが、ケアプラン検証について「給付費削減を目的としているのか、ケアマネの気づきを目的としているのか事業の方針が不明」という意見もあることです。

実際、報告書の中では「ケアプラン検証の目的」を尋ねた項目もあります。複数回答のスタイルで、「介護給付費の適正化」を目的と考える保険者が7割以上ある一方、「自立支援に資するケアプランの作成に向けた支援」で約5割、「ケアマネの資質向上のための支援」も3割以上が「目的」としています。

介護給付費の適正化とケアマネの資質向上は目的として両立できる──という考え方もあるかもしれません。しかし、「認知症の一人暮らしで、保険外の見守りサービスなどを使っても、専門性のある認知症ケアができる訪問介護の利用はどうしても増やさざるを得ない」というケースもあります。

そうしたケースでの支援をケアマネや保険者、多職種が協働で検討する中、「給付費の適正化」という目的が入り込むと、どうしても支援の焦点が合いづらくなる──これは、(保険者も含めた)現場の実感かもしれません。

いずれにしても、今回のような財務省側の建議が次の報酬・基準改定に反映されれば、保険者によるケアプラン検証の機会は今以上に増えていくことが予想されます。

必要なことは、現場の実感に沿った「目的」を明確にすることに尽きます。仮に「高齢者向け住まいにおける過剰サービス」を問題視するなら、その点に焦点を絞った案のみでいいわけです。給付費削減を含ませながら大きな網を張ることは、地域全体の支援のしくみを疲弊させることになりかねません。

【関連リンク】

居宅介護支援への利用者負担の導入を提言 財政審 - ケアマネタイムス (care-mane.com)

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。