介護事業倒産の急増と新設法人の増加。 大転換期の介護の立て直しは可能か?

2024年に入ってからの介護サービス事業所の倒産数急増が止まりません。今改定で基本報酬が引き下げられた訪問介護をはじめ、通所・短期入所系の倒産も目立っています。一方で、近年は介護サービスを手がける新設法人数も伸びつつあります。介護業界全体の姿はどのように変わっていくのでしょうか。

秋以降の決算期で、倒産数はさらに増える?

いずれも東京商工リサーチの調べであり、倒産件数などの詳細な数字については本ニュースを参照してください。

1つだけ言えるのは、倒産数の急増を見る限り、水面下での赤字事業所や人手不足によってマネジメント不能に陥っている現場の増加速度は、それ以上に高まっていると推察されることです。国として何かしら強いアクションを起こさない限り、決算期が増えてくる秋から年末にかけて、経営に「見切り」をつける事業所はさらに増える可能性があります。

すでに中規模な倒産も増えつつある中では、広域な地域を担う事業所の倒産・撤退(あるいは買収)の動きも出てくることが予想されます。そうなると、今年の年末から翌年明けにかけて、地域のサービス資源が一気に減るという危機的な状況も生じかねません。

一方で、冒頭で述べたように、新設法人数も増えつつあります。今回データが出ているのは2023年までですが、その時点で2024年度改定の動向がある程度見すえられていたことを加味すると、2024年以降も増加トレンドは続くことが想定されます。

厳しい環境下で、なぜ新設法人が増えるのか

物価上昇下のコスト管理の難題や長期トレンドとなっている人手不足、それに対応できるだけの介護報酬のアップが困難という中、なぜここまで新設法人が増えるのでしょうか。

ちなみに、法人新設のケースではありませんが、2023年の介護業界で大きな話題となったのが、保険会社大手である日本生命が、介護業界大手のニチイ学館大手の親会社を買収したことです。こうした動きが出てくることも、介護事業への参入意欲がここへ来て高まっていることの証なのかもしれません。

確かに、介護事業については、いわゆる顧客となる高齢者の増大という流れは、少なくとも2040年頃までは止まりません。ビジネスケアラーやヤングケアラーも増大する中、全国民における介護サービスへのニーズは右肩上がりが確実に続いていきます。

大企業であれば、そうしたニーズの増大やその多様化も視野に入るでしょう。仮に介護保険給付は抑制されても、保険外の事業等の多角展開で収益の向上を図るという狙いもあるかもしれません。保険会社が絡むなら、保険外サービスの費用を自社の保険商品でカバーするというビジョンもあるはずです。

新設の大法人等が描くビジョンはどこに?

この流れが大きくなれば、業界再編が一気に進むことになります。保険会社だけでなく、たとえば大手IT系企業であれば、生産性向上という潮流のもとで法人内での現場実装を展開しやすくなります。そのノウハウをもって、世界的に進む高齢化と介護ニーズの増大をにらみつつ、現場システムの海外輸出を図っていくという展開も視野に入るでしょう。

問題は、経営的な視野の広がりやビジネスモデルの多角化という一方で、地域ニーズというミクロ的視野での対応にどこまで繊細さを発揮することができるかという点です。

利用者には、地域での暮らしという「その人らしさ」に深くかかわる生活因子があります。その環境をていねいに築き、保持し、利用者の社会参加に向けた「つなぎ」役を発揮できるかどうか。実は、小規模事業者の中には、利用者と「なじみの関係」を築きながら、こうした部分を担ってきた面もあります。

その部分がすっぽりなくなり、合理化という視点で後発企業の補完が足りなくなれば、それは「介護の質」を大きく下げることになりかねません。新設法人が、そのあたりのビジョンをどのように描いているのかは、転換期において大変に気になる課題です。

失われつつある「すき間」を誰が担うのか?

もちろん、公益性を重視する既存の社会福祉法人等の中には、上記のような「すき間」を補うことに、今まで以上に力を注ぐ動きも一部で見られます。もともとある地域の多様な住民組織とネットワークを構築しつつ、幅広い地域ニーズにいかに応えていくかを模索するという動きも広まりつつあります。

しかし、そうした動きを持続させるには、介護保険の給付だけでは運営は困難となりがちです。地方行政のあり方とともに、一般財源からの拠出なども問われてくるでしょう。人口減少によって地域ニーズを下支えする人的資源も縮小するという点も加わり、地域によって介護の質にますます差が生じがちです。

このあたりを新設法人がカバーするには、「地域を大切にする」という点でのコンプライアンス(企業統治)の強化が問われます。たとえば、過疎地における事業展開をどこまで行なうのか。地域住民と連携した多様な福祉活動を法人としてバックアップできるのか。

もともとある地域のネットワークや職能団体(ケアマネ連絡会など)としては、地域に新設される法人に対して、経営方針やコンプライアンスのあり方について積極的にヒアリングを行ないつつ、協働の道を探るなどの姿勢も必要でしょう。地域の介護資源が揺らぐ今、もともと地域を支えてきた者としての立場をどれだけ発揮できるかが問われています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。