2023年の国民生活基礎調査で浮かぶ 高齢者世帯等に起こっている「異変」

7月5日、厚労省が「国民生活基礎調査」の2023年調査(6、7月)の結果を公表しました。今回は簡易調査で「介護」に関する事項はありませんが、世帯状況や生活意識の面で気になる状況が見られます。ケアマネをはじめ、介護現場としても注意が必要です。

生活の「苦しさ」が前年から大きく上昇

まず注目したいのが、世帯の生活意識の年次推移です。それによれば、「苦しい(大変苦しい+やや苦しい)」の割合が59.6%となり、前年比で8ポイント以上上昇しています。

過去5年では、2018年に「苦しい」が57.7%ありましたが、その後はコロナ禍も含めて割合は減少傾向にありました。それが、2023年に増加に転じた状況が見られます。

推測されるのは、2022年から現在に至るまで急速に進んでいる物価上昇でしょう。この点をよく表しているのが、1世帯あたりの平均所得金額の推移との関連です。
平均所得金額では、2013年以降緩やかな上昇、もしくは横ばいの状態だったのが、2020年から急速に落ち込んでいます。これはコロナ禍の影響が大きいと思われますが、それでも生活意識の悪化は見られませんでした。

つまり、それだけ2023年における物価上昇がコロナ禍以上に各世帯の生活にもたらした影響の大きさがうかがえます。ちなみに直近の消費者物価指数の動向では、生鮮食品およびエネルギーを除く動きはやや緩やかになってきたものの、総合指数は今年3月から再び上昇傾向がきつくなっています。

続く物価上昇。2024年も苦しさは増大か

そうなると、2024年に入ってからの生活意識はさらに「苦しさ」が増していることが想定されます。国は今年度からの定額減税や補足給付金などの施策を打ち出していますが、なおも厳しい物価上昇に照らした場合、その効果が十分に行き渡るかといえば微妙です。

2024年8月からは、一定以上の所得者にかかる介護保険の1号保険料がさらに上がり、施設の居住費の引き上げも行なわれます。4月の介護報酬改定、6月の処遇改善加算の増額により、利用者の費用負担も増します。利用者負担は、一つひとつの引き上げはわずかですが、これが積み重なることで、介護にかかるお金の負担感はさらに強まりそうです。

そうした中での物価上昇となれば、サービスの利用控えはもちろん、保険料上昇にともなう利用者からの多様な要求の高まりなどが、今後はさらに強まる可能性があります。ケアマネとしても、サービス調整等の対応が夏場以降厳しくなることへの備えも必要でしょう。

高齢者世帯数が初めて減少。その背景には?

さて、今回の国民生活基礎調査で、もう1つ気になるのが世帯の状況です。同調査が現在のしくみなって(1986年)から、65歳以上の高齢者がいる世帯数は右肩上がりが続いてきました。注目したいのは、今回の2023年調査では、初めて世帯数・全世帯に占める割合ともにわずかながら減少に転じたことです。

確かに、団塊世代の直後は出生数が低下し、そうした人々が高齢期に差しかかる中、高齢者数自体の増加が一定期間抑えられる時期に入った(2027年以降は再び増加に転じる)という見方もあるでしょう。気になるのは、高齢者世帯の中の構成割合です。

今調査結果では、単独世帯、夫婦のみの世帯、三世代世帯ともに微減で、唯一伸びているのが「親と未婚の子のみの世帯」です。あくまで仮説ですが、たとえば別居していた親と未婚の子どもが再び同居にいたるケース等も少しずつ生じているとすれば、この点で高齢者世帯が統合されている見方もできます。

近年は、いわゆる「8050世帯(80代の親と50代の未婚の子どもによる世帯)」が注目されていましたが、これが「9060世帯」に移行しつつあると言われます。すでに子どもが65歳以上の高齢者に差しかかっているケースも見られ、その兆候も、今回の調査結果に現れていると言えないでしょうか。

「介護倒れ」リスクのすそ野が広がっていく

最近、高齢者夫婦世帯と未婚の子どもが同居している世帯が目立つようになったという話はよく聞きます。と同時に、その子どもも中高年に差しかかる中で何らかの疾患(高血圧や糖尿病、腰痛など)を持つようになり、主たる介護力と位置づけにくくなっているというケースもよく聞くところです。

社会的にはヤングケアラーやビジネスケアラーの課題が注目されがちですが、中高年で疾患があり就業もままならない子世代が「シニアケアラー」となるといったケースの方が、ケアマネ等にとって目前の課題と言えます。

最初に述べたように、そうした世帯においても「生活の苦しさ」が一気に増しているのは容易に想像されます。仮にそうした世帯が介護サービス利用を控える流れとなれば、介護による共倒れリスクは、今まで以上にすそ野が広がっていると見るべきでしょう。

今回の国民生活基礎調査にみる「わずかな異変」は、今後現場に訪れる大きな波の前兆ととらえる必要もありそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。