
厚労省の中央最低賃金審議会で、2024年度の地域別最低賃金額改定の目安が取りまとめられました。2023年度との比較で、全地域が50円の引き上げ、全国加重平均は1,054円となります。上昇額は、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額となりました。介護現場への影響はどうなっていくでしょうか。
従事者には朗報だが中小事業者には厳しい?
今回の最低賃金目安は、2023年度からの上昇率に換算すると5%となります。ここ数年の急速な物価上昇を考慮すれば、労働者の生活水準を守るうえで、このレベルの上昇率はどうしても必要です。介護現場で働く人にとっても、朗報と言えるでしょう。
一方、経営側の視点で見れば、人件費以外のコストも上昇する中、特に中小企業にとっては厳しい値とも言えます。2024年度から強化された賃上げ促進税制などが活用できますが、今回の最低賃金引上げにともない、さらなる事業者支援策も必要になりそうです。
問題は、中小規模の事業者が多い介護業界です。介護サービス事業の収益のほとんどは公定価格となる介護報酬で成り立っています。また、利用者の健康や安全の確保に直結するコスト比率が高く、安易なコストカットは利用者の状態悪化などにつながりかねず、稼働率の急速な低下につながりかねません。
ちなみに、直近の消費者物価指数においては、上昇率にやや落ち着きは見られるものの、依然として対前年同月比でプラス2.8%となっています。ここに最低賃金の引き上げが加わった場合、特に中小規模事業所の撤退等の加速につながらないか注視が必要です。
想起される老施協の賃金・物価スライド要望
いずれにしても、依然厳しい物価上昇や最低賃金の引き上げに対応するうえで、現状の介護報酬でいいのかどうか。2024年度改定の直後ではありますが、何らかの手当てを見すえた早期の検証が必要となりそうです。
たとえば、2023年10月に全国老人福祉施設協議会が厚労省に出した要望では、「インフレ経済下において介護サービス事業者の経営の安定化に資するため、介護報酬改定サイクルの中間年においては、賃金スライドおよび物価スライドの導入」の検討を求めています。
たとえば、消費増税時などで実施された基本報酬の上乗せを、賃金・物価の上昇を考慮したうえで適用する──これを介護保険事業計画の中間年(今回で言えば、2025年度中)に実施することなどが考えられます。
もちろん、定期的なシステムとして実施するには、介護保険法改正なども必要でしょう。その点では、介護保険スタート時から賃金・物価の動向の質が変わっていることをもって、時代に合わせた制度のあり方が問われます。
中間年で行なわれる改定検証での課題
もちろん、介護保険料や区分支給限度額にも影響を与える可能性を想定すれば、急激な改革は難しいかもしれません。しかし、少なくとも中間年では2024年度改定の検証を行なうわけですから、そこで最低賃金や物価の上昇にも視点を定めたうえで、何らかの予算措置を講ずる方法はあるはずです。
そこで考えたい課題は3つあります。
1つは、経営情報の収集です。ご存じの通り、2023年の法改正で、2024年度から原則すべての介護事業者に経営情報の提出義務が課せられました。ただし、初年度の提出は2024年度中まで猶予されています。この経営情報を活かす機会ではありますが、中間年での検証に間に合うかどうかが問われます。
2つめは、既存の経営実態調査等で以前から指摘されていることですが、たとえば訪問・通所系でサ高住等に併設している場合などの収支差率が高くなりがちで、各サービスの経営実態が十分に反映されにくいことです。中間年検証を行なう際には、この点での経営実態の対象分けをどうするかも課題です。
地域から要望を上げていくタイミング
3つめは、賃金・物価スライドでの基本報酬見直しなどを行なう場合、診療報酬側とのバランスをどうするかという点です。ちなみに、診療報酬改定は2年ごとです。もともと介護報酬とサイクルが異なるので、大きなハードルにはなりにくいという見方もあるでしょう。しかし、業界団体の規模が違うので、介護報酬だけ期中の見直しを行なうとなれば、その調整は難しいかもしれません。
そうなると、介護業界の従事者不足やそれにともなう地域の介護サービス資源の不足について、業界・職能団体の枠を超えて、どれだけ危機感を共有できるかが問われます。
個々の医療職にとっては、地域の中での連携対象として、介護従事者・事業所に対する重要性の認識は増しています。しかし、お金の話が絡むとなると、医療側の団体がきちんと一枚岩になれるのかが課題となりがちです。
このあたりを含め、「賃金・物価スライドによる期中改定」を視野に入れた検証のしくみをどのように構築していくか。国に早期の検討を求めるために、地域の各種団体からも要望をあげていくタイミングといえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。