
介護情報基盤について、2026年4月からの施行を目指すという工程が示されました。利用者にかかる各種介護情報のオンラインによる共有・活用が進む中、特に影響を受けやすいケアマネ関連の実務や制度はどう変わっていくのでしょうか。2027年度の報酬・基準改定への反映などを含め、見通してみましょう。
ケアマネの実務にはどのようなメリットが?
国保中央会に設けられる介護情報基盤に関し、そこに蓄積される介護情報等の共有・活用を促進するしくみが、2023年の介護保険法改正で地域支援事業に位置づけられました。施行については「公布後4年以内」とされていましたが、システム稼働が2026年4月とされたことで、その活用のタイミングも同時期に照準が当てられることになります。
7月8日開催された社会保障審議会・介護保険部会では、介護情報基盤の活用により、ケアマネ等の実務にどのようなメリットが生じるのかを見すえた資料も示されました。
たとえば、「居宅介護支援では、自治体窓口に移動するという業務すべてに手間がかかっており、要介護認定情報(概況調査・主治医意見書)が電子化・共有されることにより業務効率化が期待できる」としています。また、介護保険証の電子化の実現が視野に入った場合、「負担割合証等、全被保険者が保持していない資格情報も確実に参照できるようになる」といったメリットも示されています。
現状業務は確かに効率化されるが…注意点も
ケアマネの立場としては、業務負担の軽減の観点から「メリットが多い」という印象が強いかもしれません。ただし、そこでは「現状の実務範囲が保たれている」としての効率化という「ただし書き」が付くでしょう。
注意したいのは、今後の介護情報基盤の活用を進めるために、制度上の実務規定に手入れがなされるケースです。仮定の話として、この介護情報基盤の浸透に向けて制度のあり方そのものを変えるという動きが生じれば、現場には「新たな実務上の改革が強いられる」ということも想定しなければなりません。
もちろん、この介護情報基盤を活用する・しないが「事業所の自由」というレベルにとどまるなら、現場としては「受け入れたいメリット」を取捨しつつ、それぞれのペースで業務に浸透させていくこともできるでしょう。
しかし、国として「システム稼働ありき」で前のめりになると、新システムに現場の実務を合わせていくという逆の動きが生じかねません。これによって現場が混乱すれば、効率化の効果が打ち消される恐れも生じます。
ケアプランデータ連携システムと同様の懸念
すでにこうした状況が見え隠れするのが、ケアプランデータ連携システムです。
ケアプランデータ連携システムについては、2024年度改定で担当件数が緩和される居宅介護支援費Ⅱの要件に設定されました。しかしながら、すでにサービス事業所との間で別システムによるデータ連携を進めている事業所・地域もあり、日本介護クラフトユニオンが今年4・5月に実施した調査でも「導入していない」が5割以上を占めています。
ケアプランデータ連携システムも業務効率化のメリットはありますが、事業所・地域ごとに実務環境の事情もあります。両者の溝を十分に考慮しないまま報酬要件に組み込んだことで、現場が釈然としないまま、トップダウンの色合いが濃い改革となっています。
結局、国は「同システムによる連携実績は問わない」という留意事項まで出しました。
そうなると、「何のためのケアプランデータ連携システムなのか」という現場の疑問はさらに膨らみがちです。これは制度運営に必要な現場の信頼を損なうことにもつながります。
前のめりなシステム稼働で想定されること
介護基盤情報でも、現場の実情を省みずに「システムありき」で制度設計が進められてしまえば、同じ懸念が膨らみかねません。
たとえば、2026年4月からの稼働後に「居宅介護支援等のアクセス率が低い」となれば、システム構築・改修に多額の予算がかかることで、会計検査院などから指摘を受ける可能性があります。それを避けたい国としては、2027年度改定で、介護基盤情報の活用を何らかの形で報酬要件や運営基準に組み込むなど、強い浸透策を図ることも考えられます。
もちろん、事業者側のシステム対応の準備などを考慮しなければ、大きな混乱を招くことは厚労省側も承知しています。介護保険部会の議論も、このあたりの懸念の払しょくに主眼が置かれたという位置づけです。しかし、事業者側の環境整備も、現場の納得を得られてこそ進ちょくする点に違いはありません。
ちなみに、国が前のめりになりがちなのは、医療側のシステム対応が進み、診療報酬上でも介護側とのデジタル情報連携を前提としたしくみが整いつつあることも要因の1つです。
たとえば、2024年度の診療報酬改定で誕生した在宅医療情報連携加算では、ICTによるケアプランデータ等の活用が要件となっています。当然、介護情報基盤の活用も視野に入るでしょう。これを受け、2027年度の居宅介護支援の改定でも、医療機関とのデジタルデータ連携の義務化などが想定されます。
いずれにしても、2027年度改定に介護情報基盤の稼働がどこまで影響を与えるのか、そこに国と介護現場の間の信頼関係の構築が追いつくのか。今後の介護保険部会の議論でも、このあたりの掘り下げに注目しましょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。