ケアマネジメントの公正中立性とは? 利用者ファーストの原点へ立ち返りを

厚労省から、特定事業所集中減算の適正な適用にかかる通知が出されました。同減算の適用に際し、集中割合の計算方法等に誤りがあるケースを会計検査院が指摘したことによるものです。今後は保険者によるチェックも厳しくなることが予想されます。

会計検査院がマークする「公正中立性」

会計検査院は、日本国憲法で定められた予算の適正な執行を監視する機関です。それゆえ同院からの指摘は各省庁に対する影響力が大きく、厚労省としても保険者に対して強い姿勢を示すことが必要になったといえます。

ちなみに、ケアマネジメントの公正中立性に関しては、制度のあり方を含めて、以前から会計検査院が強くマークしているテーマです。こうした動きが出てくると、今後の予算編成でも「公正中立性」にかかるテーマが再びクローズアップされる可能性があります。

今通知を改めて確認すると、現場に関して指摘されているのは、特定事業所の集中割合にかかる計算ミスです。たとえば分母に関して、対象サービスを複数事業所が提供している場合のケアプラン数を別々に取り扱ったために、分母が過大になったケース。あるいは、分子に関して紹介率最高法人が複数事業所を運営している場合に、一部の事業所だけを集計することで分子が過小になったケースが示されています。今後の運営指導等に際して、現場としても特に注意が必要な点でしょう。

それは本当に公正中立につながるのか?

こうした注意が喚起されるたびに、事務職を数多く採用できるような規模の事業所はともかく、管理者(あるいは現場のケアマネ)まで煩雑な計算業務等を手がけざるを得ない小規模事業所の緊張度は高まります。

そうした事業所がつい考えがちなのは、「こうした手間が本当にケアマネジメントの公正中立につながるのか」という点でしょう。それは、これまでの公正中立性の確保策の揺れ動きなどもあり、特に強くなりがちです。

たとえば、2021年度改定で前6か月における訪問介護等の利用割合、そのうちの同一事業所による提供割合を集計して利用者に説明することが義務化されました。ところが、その効果が疑問視され、わずか3年後の2024年度には努力義務へと緩和されています。

こうした動きに翻弄されると、「何のため」という現場の疑問・不信はどうしても高まりがちです。ケアマネ不足が叫ばれる時代に、翻弄される労力を利用者にかかわる時間に振り向けたい…という思いも募るはずです。

そもそもの公正中立性の目的とは何か?

いずれにせよ、会計検査院の動きも視野に入れると、2027年度改定に向けては、再び「ケアマネジメントにおける公正中立性の確保」が大きな論点となるはずです。その際には、「そもそも公正中立性とは誰のための、どんなメリットを目指した考え方なのか」という原点に立ち返ることが必要でしょう。

居宅介護支援の運営基準の趣旨では、ケアマネジメントの公正中立性の目的を以下のように規定しています。それは、(1)利用者の意思・人格の尊重、(2)利用者の立場に立つこと、(3)サービスが特定の種類・事業者に不当に偏ることがないようにするためというものです。

ケアマネジメントの趣旨からすれば、重要なのは(1)と(2)です。(3)についても、(1)、(2)を叶えるうえで必要な要素と解釈できます。つまり、「不当な偏り」が解消されれば、利用者の「意思・人格」の現れである選択権が守られ、ケアマネも「本人の立場」を第一に考えたサービス提案が可能になるという理屈です。

しかし、(3)が(1)、(2)から切り離されて一人歩きを始めると、「偏りをなくすため」に報酬を操作するという技術論に陥りがちです。

減算等の報酬操作はさらに強まっていく?

確かに、特定事業所集中減算については、「利用者の囲い込み」へのけん制にはなります。ただし、多サービスを展開し、ケアマネを営業職的にしか見ないような事業所だと、月200単位減算は「囲い込み」を抑制するだけのペナルティにはならないこともあります。

そうなると、追加的な減算規定などが繰り出されるかもしれません。今改定でも、居宅介護支援における同一建物等居住者についての減算(訪問介護については減算の新区分)が設けられました。いかにして利用事業所を集中させないかという報酬操作的な流れは、ますます強まる可能性もあるでしょう。

しかし、先の(1)、(2)の原点に立ち返るとするなら、新たな発想も必要かもしれません。

地域の利用者ニーズの掘り下げをもう一度

たとえば、保険者が地域の利用者ニーズの掘り下げを行ないます。ニーズが集中し事業所が足りなくなる時間帯はいつか。看取りや重度の認知症など、高度な対応を要するニーズにどのような傾向があるか──こうした掘り下げのもと、各ニーズに対応できる事業所を保険者が選別して独自の上乗せ加算などを設定しやすくするしくみなどはどうでしょう。

制度設計に一定の困難は要するでしょうが、地域包括ケアの見える化システムなどを応用すれば不可能ではないはずです。いずれにしても、地域レベルで利用者が本当に求めるサービスを評価することが、結果的に公正中立に近づく道なのではないでしょうか。

そもそも、国が進めようとしている事業所の大規模化は、それ自体「利用者の選択権」を危うくするという見方もあります。その矛盾と向き合いつつ、利用者への説明責任や現場の計算業務ばかりが増えるという流れをいったん見直すこと。そのうえで、地域の独自性を活かせる道を見つけ出したいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。