水面下で深刻化するハラスメント。 リスク軽減の「現場任せ」は限界あり⁉

 

介護業界の職業別労働組合である日本介護クラフトユニオンが、組合員を対象とした2024年度の「就業意識実態調査」の結果を公表しました。大きなトピックの1つが、介護現場における近年のハラスメントの状況があげられます。利用者および家族による現場従事者へのハラスメントは依然として深刻で、早急な対策が求められる課題の1つです。

コロナ禍のバイアスがかかっている点に注意

本ニュースでも取り上げられている通り、直近2年以内で利用者や家族から「ハラスメントを受けた」という経験がある従事者は、月給制・時給制組合員ともに2割台となっています。ただし、直近2年間ということは、コロナ禍によって利用者はともかく家族と接する機会が減少していた可能性があるという点に注意が必要です。また、サービス種別によっては、経験の割合に差も生じがちです。

たとえば、コロナ禍前となる2018年に厚労省の老健事業で、介護現場における利用者や家族等からのハラスメントの実態調査が行われています。ここでは、サービス種別で「直近1年間」の状況も示されています。

それによれば、特養ホームにおいて、「利用者本人から」のハラスメント経験は62%にのぼります。「家族から」は10%にとどまりますが、直近1年間という条件下であることを考えると、単純に2倍すると「家族だけ」で2割に達する状況が想定されます。

2021年度の防止義務化の効果はどこまで?

いずれにしても、今回のクラフトユニオンの調査結果は「氷山の一角」と言えるのかもしれません。ちなみに、2021年度改定で、事業所・施設に対して「ハラスメント防止の義務化」が図られました(利用者・家族によるハラスメントについては、セクハラのみが義務化でパワハラ対策等は推奨)。2018年時点との比較で一定の抑止効果をもたらしているとも言えますが、組織的な対応が難しい小規模事業所などとの状況の格差が広がっている可能性にも注意する必要があるでしょう。

そうなると、必要になるのは以下の2つです。1つは、利用者・家族からのハラスメントへの対処法やそれを通じた従事者保護や再発防止のしくみについて、業界全体でベースとなるマニュアルやガイドラインを作成し普及させること(普及を通じる中で、利用者・家族への啓もうも期待できる)。もう1つは、小規模事業所等の対処力を上げるために、自治体・包括へと即座に相談できる連携体制をこれまで以上に強化することです。

マニュアルが示す3つのリスク要因とは?

前者のマニュアルについては、2022年3月に老健事業による最新版の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」が示されています。同マニュアルでは、ハラスメントのリスク要因として、A.環境面でのリスク要因、B.利用者・家族等に関するリスク要因、C.事業所・施設のリスク要因をあげています。

A.は、たとえば「利用者・家族と従事者が1対1(あるいは「多体1」)になりやすい場の状況です。施設等の構造的な問題はもちろん、「他に従事者がいない状況」が作られるなど、人員の配置状況も含まれます。

また、C.は事業所・施設で、サービス範囲やルールの徹底を統一しきれていないケース(例.利用者・家族への周知のあり方が現場任せになっているなど)があげられます。

B.は、利用者・家族側の問題となりますが、たとえばアルコール依存症や薬の副作用、その他精神疾患の状況などが絡む場合、やはり医療等を含めた多機関とどのように連携していくかという体制の話がかかわってきます。家族の介護負担が過剰であるゆえに、理不尽な要求が生じやすいという状況も、(虐待リスクという点も含めて)家族支援にかかる多機関連携がやはり基本となってくるでしょう。

巡り巡って「制度の問題」も無視できない

なお、同マニュアルでは、利用者の認知症のBPSD悪化によるものについては、ハラスメントとしての対処ではなく、認知症の症状に対するケアが必要としています。ただし、従事者の安全確保に配慮するという点に変わりはなく、言うなれば「ハラスメント対策」と「ケアのあり方」は車の両輪で、組織的な課題分析を経たうえで「事業所・施設としての体制」が問われるといえます。

こうして見ると、利用者・家族によるハラスメントを防ぐうえでは、事業所・施設の運営を統括する法人としての確固たるビジョンが必要です。その中心には、「現場の従事者をいかに大切にするか」というテーマがあり、その点が揺らぎがちな組織では、常にハラスメントの発生リスクが高まることになります。

これを推し進めると、各保険者が「地域の介護人材を守る」という強い当事者意識をいかに持っているか(それによる地域連携のしくみを構築していけるか)が問われてきます。

さらには、先に述べた「現場従事者が1人で利用者・家族と向き合わざるを得ない」という環境リスクを見すえた場合、そうならないための厚い体制をいかに築くかという点で、国の施策も強くかかわることになります。利用者・家族によるハラスメントの問題は、巡り巡って「制度のあり方」も問われている。この点を軽視すると、現場は常に「そのつどの対応」に追われますます疲弊しかねません。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。