
2024年10月27日、衆議院議員総選挙の投開票が行われます。前回の総選挙が3年前の2021年10月。前回も今回も、介護報酬改定から約半年後というタイミングです。前回はコロナ禍、今回は物価上昇下における経営や処遇の厳しさが介護現場を覆っています。現場として投票時に何を重視すべきでしょうか。
各党の公約では、かなり具体的なものも
介護現場で働く者として、どの政党のどのような政策に注目し投票するか──そのためのヒントは、「これを実現してくれたらありがたい」という公約のうち、より具体性のある施策の選挙後の展開に着目することです。
27日の投開票に向けて、与野党ともに選挙公約が出揃いました。新首相の就任から解散までが戦後最短という慌ただしさの中、たとえば野党・国民民主党がかかげる「ケアマネの更新研修廃止」や「地域包括ケア士(仮称)の制度化」、「処遇改善加算の対象者への直接給付(賃金は10年で2倍)」のように、かなり具体性のある施策も示されています。
同党の衆議院の現有議席は、わずか10です。しかし、こうした具体性のある施策は、総選挙後の国会の勢力図が大きく変わる見通しもある状況下では、他党がかかげる大きな施策との連携により、実現可能性を高めやすいメリットもあります。その大きな施策の枠組みですが、与野党含めた全政党の介護関連の公約を通して診ると、多かれ少なかれ「介護人材の処遇改善」がうたわれています。
選挙後の政権の枠組みを視野に入れると…
最大野党・立憲民主党の「他産業平均賃金との差(8万円)を埋める」という施策はもとより、与党の自由民主党も「賃上げ等の処遇改善を進める」とし、公明党も「物価上昇を上回る引上げ分の確保」をうたっています。
いずれも、国民民主党の施策の具体性と比べると「本当に実現できるか」を判断するうえでは、やや総論的と言えるでしょう。総選挙等の公約というのは、具体性が強すぎると実現可能性のハードルが上がるため、政権に近い与党および議席数の多い野党などは、総論的な内容にとどめる傾向があるからです。
しかし、仮に政権の座に就いた場合、各党としては「(大きな施策枠であるゆえ)実現までには長い道のりが必要だが、直近で公約の進ちょくをアピールできるインパクトも求められる」という意図も浮上しがちです。
そうした中で、先の国民民主党の「処遇改善加算の直接給付」などの施策は、他党としては「賃金改善」の実感を強めるうえでインパクトのある材料と映るかもしれません。そうなれば、選挙後に政党間で施策の連携を図る場面が生じる可能性もあります。
「訪問介護の基本報酬」を軸とした連携も
では、どの政党と連携するのか、現与党と連携する可能性もあるでしょうか? 可能性ゼロとは言えないものの、今回は総論的・具体論的にかかわらず、与野党で大きな施策の対立軸が生まれていることに注意が必要です。
それが、「訪問介護の基本報酬」にかかる公約です。たとえば、最大野党の立憲民主党では、政策集2024で「(期中改定をもって)訪問介護の基本報酬引下げを実質的に撤回・見直し」するとしています。日本共産党は、2024総選挙政策で、「(介護保険への国庫負担を10%増やしつつ)訪問介護の基本報酬をすみやかに元の水準に戻す」と記しています。
そして国民民主党ですが、政策パンフレット2024で、やはり「政府が引き下げた訪問介護の基本報酬の引き上げ(さらに介護職員の賃金引上げ)」をうたっています(なお、日本維新の会は、維新八策2024で「障害者福祉における重度訪問介護の経済活動中の利用を可とする」施策はありますが、介護保険の訪問介護にかかる施策は上がっていません)。
一方の与党ですが、自由民主党の政策パンフレットでは「地域の医療・介護・福祉の基盤」を守るとありますが、訪問介護については言及がありません。公明党の衆院選重点政策では、「訪問介護をはじめとした介護人材の処遇改善を一層進める」とはしていますが、「基本報酬」の話にはふれていません。
どの政党に投票すれば実現期待値は上がる?
こうして見ると、総論的な公約が多い中でも、野党間で「訪問介護の基本報酬引下げの撤回・引上げ」という、大きな枠に変わりはないものの、具体的な共通軸が浮かんでいることが分かります。もちろん、防衛面など政党間の根本的な考え方の違いで連携が難しいケースはあるでしょう。しかし、この「訪問介護」をめぐる施策軸により、次期政権の枠組みによっては、現場にとって期待したい介護施策が一気に進む可能性もあります。
その実現を視野に入れると、どの政党・候補者に投票すればいいのかを考える道筋も見えてきます。現有少数でも具体的な施策を掲げている政党が有効なのか、大きな施策枠の実現に向けて、少数政党との連携先を模索する動きが予想される多数政党が望ましいのか。小選挙区と比例代表で、両方のビジョンを使い分けるという考え方もあるでしょう。
各政党が掲げる公約の1つ1つが、他党の施策とどのように絡むのか。そうした部分までしっかり見据えることが、有権者1人1人の一票の力を大きく高めることになります。
【関連リンク】
国民民主、衆院選の公約にケアマネ更新研修の廃止を明記 介護職員の給料倍増も - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。