
老施協が、施設利用者の「食費の基準費用額の見直し」要望書を提出しました。現在中医協では中期改定の一環として入院時の食費の引き上げなどが検討され、その流れもあり、今要望についても早期対応が進みそうです。一方で「取り残され」が気になるのは、在宅の利用者の食生活および栄養ケアの状況です。
施設だけではない。物価高騰と食費の関係
「物価高騰が食費におよぼす影響」は、施設だけではありません。在宅の利用者であっても、物価高騰によって日々の食生活を通じた「必要な栄養確保」が困難になりつつあるという声が現場からも上がっています。
しかし、在宅の利用者は食費における補足給付のようなしくみはありません。通所系サービスでの食費では、低所得者に対する負担軽減制度はあります。しかし、家で食べる食事(訪問介護で調理されるケースも含む)の食材料費については、直接的な補助等はありません。あくまで国や自治体による低所得者向けの給付金等でまかなわれます。
ただし、家での食事に関しては、仮に給付金などがあったとしても、本人や家族としては「節約」に向けたバイアスがかかりがちです。訪問介護で「本人の栄養状態」を考慮した食事を調理しようとしても、食材料にかかる本人等の節約意向が強ければ、どうしても「限られた食材での栄養確保」という難しい対応に追われざるを得ないでしょう。
在宅利用者の栄養摂取にかかるデータ不足
こうした中、高齢者全体の栄養実態調査などはあるものの、在宅での要介護者に「必要栄養量が確保されているかどうか」などを、経時的かつ詳細に示したデータはありません。
ちなみに、通所系サービスでは、科学的介護推進体制加算や栄養アセスメント加算によって,利用者の栄養状態にかかるLIFEへのデータ提供はあります。しかし、訪問系サービスでは、LIFE対応加算が適用されていないうえに、栄養関連のスクリーニングなどを要件とした加算なども設けられていません。
その結果、在宅利用者の栄養状態の実態把握はどうしても限定されがちです。把握できるとすれば、訪問看護や居宅療養管理指導、居宅介護支援における体重・身長等のヒアリングを通じたBMI値の把握や、通院時の血液検査等による数値情報の共有にとどまります。
そうなると、昨今の物価高騰によって在宅の利用者の栄養状態にどのような影響が生じているかという実態は、明らかになりづらいのが現状です。担当ケアマネ等が、先のBMI値や通院時の数値把握などを意識的に行なえるかどうかが頼みになってしまうわけです。
在宅利用者向けの体系的な栄養ケアの必要性
このように、物価高騰などの環境要因と高齢者の栄養状態の相関関係が十分に把握できるデータがなければ、在宅の要介護者の低栄養リスクを防ぐのは難しくなるでしょう。
昨今では、保険者レベルでの保健師(あるいは、認定資格である在宅訪問管理栄養士など)による訪問栄養指導などを通じ、物価高騰下の栄養状態などを進めているケースも見られます。しかし、介護保険上の「在宅の利用者の栄養管理」はまだまだぜい弱です。
この点を考えたとき、訪問・通所系サービス等の利用有無を問わず、居宅サービスを利用する人に対して、体系的な栄養ケアの推進を図るしくみが必要ではないでしょうか。
たとえば、(居宅療養管理指導とは別に)保健師や管理栄養士などがケアマネとの同行で栄養スクリーニングを行なう。そこで低栄養リスクが認められた場合に、配食サービス等の利用を全国一律の保険給付の対象とする。その結果として、改善が認められた場合にはアウトカム評価も導入するという具合です。
これらを介護保険でまかなうのが難しければ、物価上昇が落ち着くまでの間、公費でまかなうという選択肢もあるでしょう。国は高齢者の重度化リスク軽減も視野に入れて介護情報基盤を構築し、毎年度相応の予算を投入しているわけですから、「中長期的な財政方針」とは矛盾しないはずです。
財政悪化を防ぐうえでも栄養ケアの見直しを
昨今の長引く物価上昇には、もちろんさまざまな要因が絡んでいます。しかし、それをなかなか抑えられず、実質賃金も上がらない中では、老後不安を解消するだけの年金制度も維持できません。それが、高齢者の低栄養リスクに直結すれば、疾病悪化などで医療費の高騰に結びつき、それが財政をさらに圧迫し現役世代の負担も増えるという悪循環にもつながることになります。
となれば、「特にリスクの高い要介護者の栄養確保を守ること」は、今の時代における国の重要な責務の1つとなるはず。たとえば、「適切なケアマネジメント手法」で「食事と栄養の確保」をうたっていても、それを支える公的資源が乏しい限りは、実効性のない目標となってしまうのではないでしょうか。
国は、在宅の利用者の栄養確保には腰が引けがちで、食事支援における支えの1つとなっている生活援助なども要介護度に応じて給付から外す案が出ています。現状の物価上昇下で、こうした流れが国民の命ひいては財政を守ることにつながるのかどうか。最重要の検討課題とするべき時期なのかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。