
2027年度の介護保険制度見直しに向けて、介護保険部会で本格的な議論が始まっています。今期の議論の特徴は、政府のかかげる「2040年に向けて」というテーマのもと、介護保険を多様なしくみで補うという流れが強いことです。今後、介護保険がどのような方向に導かれようとしているのかを整理しましょう。
介護保険改革の主題は「給付外」にあり?
2月20日に開催された介護保険部会での論点提示を見ても、介護保険を取り巻く多様なしくみの「議論待ち」が目立ちます。
この「多様なしくみの議論」については、たとえば、老健局で開催されている「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」、あるいは2024年6月からの「地域共生社会のあり方検討会議」などがあげられます。
2040年に向けて「介護保険を補完する」という視点では、経産省の「高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会」での議論の動向も影響することになるでしょう。
こうして見ると、介護保険部会の議論の方向として、「介護給付外(総合事業なども含む)でのさまざまなしくみ」を介護保険制度の内外でどのように位置づけるかが大きなテーマとなりそうです。その先には「給付外のしくみ」が「介護保険の報酬や基準」のあり方に影響を与えるという可能性もあるでしょう。
注意したい、総合事業のモデルチェンジ
上記のような流れをざっくりと整理するなら、「介護給付」と「それ以外の多様なしくみ」との境界線を緩やかにし、高齢者に対して、早期から切れのない継続的な支援を展開するというビジョンになるのかもしれません。
このあたりの方向性が示されているのが、2023年12月に「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の充実に向けた検討会」で示された中間整理です。この内容は、先に述べた「地域共生社会のあり方検討会」の議論のたたき台にも引用されています。
注目したいのは、「総合事業」をモデルチェンジさせるために、「地域共生社会を実現するための基盤」と位置づけたことです。
たとえば、一般介護予防である「通いの場」などを入口として、高齢者が元気なうちから医療・介護専門職とつながりを築きます。そのつながりのもとで、介護が必要になっても必要な支援を受けながら、自分らしい暮らしの継続を実現するというしくみです。
つまり、「総合事業」を横軸として通すことで、切れ目のない継続的な支援を可能にするというのが、厚労省の描く「2040年」に向けたビジョンと位置づけられます。
これで利用者ニーズに対応する介護給付を補完できるのかという疑問はあるかもしれません。とはいえ、この新たな「横軸」の通し方が、2027年度の制度見直しの土台の1つとなることは間違いないでしょう。
「相談支援」の議論が真っ先になった背景
もちろん、これまでも多機関・多職種連携によって、「切れ目のない支援」を図るビジョンはありました。ただし、今回のポイントは「早期から専門職がかかわり続ける」という点です。ここに「同じ専門職がかかわる」という伴走型支援を想定するかどうかはともかく、各支援間の「垣根」をより緩やかにするという制度構築の方向性が濃いといえます。
そうなると、気になるのは「早期からの相談支援」かかわる専門職のあり方です。
いみじくも、20日の介護保険部会では、地域包括ケアシステムにおける相談支援等のあり方が取り上げられました。居宅介護支援や包括のあり方や、ケアマネの専門性もテーマとなっています。認知症施策でも、認知症ケアパスのあり方を通じ、相談支援の流れをどう構築していくかが論点となっています。
介護保険には多様な課題(持続可能性に向けた財源のあり方など)が山積する中、「なぜ相談支援のあり方が真っ先に取り上げられるのか」を疑問に感じる向きもあるかもしれません。実は、ここに介護保険の大きな見直しテーマが潜んでいると考えるべきでしょう。
ケアマネの役割変化で処遇の前提も変わる
仮に、介護保険をめぐる前後、あるいは周囲の「垣根」を緩やかにするというしくみの再編が行われるとして、たとえばケアマネとして気になるのは「自分たちのかかわりや役割はどうなっていくのか」という点です。
ケアマネジメントのあり方検討会では、ケアマネの業務範囲の整理が提言され、法定外業務に関する多機関の協議の必要性が語られています。それ自体の議論が進むのはいいとして、気になるのは、2024年度の制度見直しで、居宅介護支援事業所に包括から総合相談支援の一部委託が可能になったことです。
仮に、国が「総合相談」を入口とした「継続的な横軸通し」にこだわるとするなら、ケアマネが(各専門機関・サービスへの「つなぎ役」に徹するとしても)高齢者からの相談を幅広く受ける役割を担わされる状況は、今まで以上に強まることも考えられます。
そうなれば、ケアマネの処遇改善を検討する前提が、今までと変わることになりかねません。介護保険をめぐる「垣根」を緩やかにするという方向で議論を強めるのなら、やはりケアマネ(包括職員含む)の処遇改善のあり方をセットで進めることが必要でしょう。
「賃金は上がったが、よく見ると業務も広がっていた」というのでは、ケアマネ不足対策の議論は堂々巡りになりかねません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。