2025年1月の死亡数急増の「なぜ」。 見すえるべき介護現場の苦境との関係

厚労大臣の定例記者会見で、最新となる今年1月の人口動態調査(速報値)に関する質問が上がりました。それによれば、死亡数が対前年同月比でプラス2万1,000人以上(プラス13.9%)にのぼったことが指摘されています。いったい何が起こっているのでしょうか。

インフルエンザ拡大等の複合要因が絡んだ?

質問した記者によれば、1月の死亡数の増加は「東日本大震災級の震災が起きたような激増」とのこと。厚労大臣もこの死亡数の急増は「把握している」としたうえで、7月上旬に公表予定の死因別の状況などを確認したうえで分析・対策を行なうとしました。

ちなみに、新型コロナの感染拡大以降、死亡数は増加傾向にあり、コロナ禍前にも死亡数が急増するケースはありました。この点は厚労大臣も指摘しています。それでも、月単位でこれだけの急増は異例であり、複合的な要因も絡んでいる可能性があるでしょう。

今年1月については、特に西日本や沖縄地方などで寒暖差が大きく、また、昨年12月から1月にかけて新型コロナとインフルエンザの患者数の増大が重なることもありました。特にインフルエンザについては、定点あたりの報告数の1か月あたりの伸びがコロナ禍以降で最大という状況も見られます。

ここに、団塊世代が75歳以上に差し掛かるなどの人口の高齢化や物価上昇による通院控え、あるいは栄養状態の悪化などが加わったことも大きな要因かもしれません。そして、もう1つ付け加えておきたいことがあります。

2024年度ダブル報酬改定の影響はないか?

これはあくまで仮説ですが、介護現場が人員不足で機能低下に陥り、倒産・撤退も2024年は過去最多となったこととの絡みです。倒産・撤退に至らなくても、利用者の重度化リスクに対応するだけのサービス機能が整いにくくなったという状況もあるでしょう。

その間、物価や他産業の賃金が急上昇し、2024年度の報酬改定(処遇改善加算含む)も追いつかないまま、リスク増に見合うサービス提供はますます厳しくなりました。
結果として、利用者の重度化にかかる発見・対処が後手に回り、先の寒暖差やインフルエンザ等の増大などが重なることで、著しい死亡増につながった可能性はないでしょうか。

また、利用者の重度化リスク発見後に連携先となる医療機関の状況も厳しくなっています。全日本病院協会など、病院関連6団体が公表した「2024年度診療報酬改定後の病院経営状況」によれば、2023年と改定後の2024年の比較で、経常利益が「赤字」の病院が「50.8%⇒61.2%」と1割以上増えています。

連携する病院側の赤字体質が顕著になれば、やはり人員不足による対応力の低下が懸念されます。いわば、2024年度の介護・診療報酬のダブル改定において、両者に「物価上昇等に報酬が追いつかない」という状況があり、患者の予後悪化をもたらしやすい環境になっていた可能性も考慮しなければなりません。

伸びつつある死因、老衰と誤嚥性肺炎に着目

ここで、近年の死因の伸びを見てみましょう。年間データの出ている2023年のもの(厚労省の人口動態統計)ですが、対前年比で伸びの大きい死因は「老衰(プラス9.6%)」と「誤嚥性肺炎(プラス3.8%)」となっています(死因数自体の順位が高い「がん」や「心疾患」は、いずれもマイナス)。

高齢化にともなってこの傾向が続いているとすれば、今回の死亡数の急増においても、この2つの死因がカギとなりそうです。

「老衰」というと「天寿を全うした」というイメージがありますが、あくまで「他の死因に当てはまらない自然死」という分類に過ぎません。早期からの栄養改善等による適切な体力維持が図られていれば、本人の意向に沿った長寿が実現できた可能性もあります。

また、「誤嚥性肺炎」については、介護現場等における口腔衛生の管理の推進によって、防ぐことができる割合を高めることもできるでしょう。いずれにしても、その人らしい人生の継続に向けて、介護現場の力量をいかに発揮させるかが問われるケースといえます。

制度上の重度化防止策が危機に面している?

こうした点は厚労省も認識しているはずで、だからこそ過去の報酬改定を通じて、「口腔衛生管理の強化」や「口腔・栄養・リハビリ等の一体的取組み」などが図られてきました。実際、社会保障審議会では、これらのテーマにかかる効果検証も行われています。

たとえば、「一体的取組みの効果」について、先の死因にも関係する「誤嚥性肺炎の予防や、リスクが高い利用者の早期発見につながった」という回答が、対医療連携の環境整備に苦慮しやすい特養ホームで、もっとも高くなっています。現場としては、厳しさの中でも一定程度の効果の実感はあるわけです。

しかし、どんなに制度上での対応強化が促されても、かかわる人員の絶対数の減少や対応環境のためのコスト悪化が進むとなれば、現場努力だけでは限界が生じます。基本報酬に左右される経営環境等との兼ね合いが分析に加わらない限り、狙った効果もどこかで破綻する懸念が高まりかねません。

今年1月の死亡数の急増は、そうした「現場努力の限界」の一端を表わしているのではないか。2024年度改定の効果検証を行なうのであれば、こうした視点をきちんと織り込みつつ、「死亡数急増」の原因究明も同時に反映させていくことが不可欠かもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。