
介護施設と協力医療機関との連携について、厚労省が自治体向けの通知を発出しました。2024年度改定で連携する協力医療機関に一定の条件が付され(2026年度末までの経過措置あり)、さらなる連携推進のための加算も設けられました。ただし、その進ちょくが芳しくない状況も見られる中、今通知では、自治体にも積極的な関与を求めています。
国は自治体に「つなぎ役」を期待するが…
今通知では、都道府県および市町村に対して、A.各施設等における協力医療機関との連携状況を把握すること、B.協力医療機関との連携にかかる取組みが行われていない施設等に対して(集団指導等を通じて)助言等を行なうことを求めています。さらに、C.在宅医療・介護連携推進事業等の活用により、協力医療機関との連携にかかる相談窓口の設置やマッチングなどの取組みも推奨しています。
ちなみに、6月2日の介護保険部会でも、上記C.に示された取組みにかかる方策が検討された他、地域医療構想等の接続の観点から都道府県や市町村が担うべき役割の整理を行なうことが論点としてかかげられています。
このように、国としては、自治体による「後押し」を重要なカギと位置づけています。ただし、それだけで施設等と協力医療機関の連携が進むかといえば、難しいのが実情かもしれません。確かに、自治体が連携の「つなぎ役」としての機能を発揮することは重要です。しかし、その効果を上げるには、施設等と協力医療機関の双方において、連携に向けた内部体制が整っていることが前提でしょう。
「外部交渉」と「内部調整」が同時に必要
たとえば、施設等入所者の現病歴等を共有する定期会議の開催を要件とした協力医療機関連携加算。これを「算定していない理由」で施設系・居住系ともに、「定期的な会議の負担が重く、会議を行えていない」がもっとも多くなっています(一部「その他」を除く)。
この場合の「定期的な会議」は、外部の医療機関を相手とするものであり、相互の組織内での「調整役」が必要です。内部だけの会議なら、組織内の管理業務(会議のためのシフト調整など)をベースとしながら進めることになります。もちろん、管理職の負担が生じることに変わりありませんが、従来の会議コーディネートやシフト調整のノウハウを活かしながらの体制構築は可能でしょう。
しかし、外部の「相手」がいる状況となれば、それまでとは別のノウハウ体系を充実させなければなりません。これまでも「渉外業務」を担っていた担当者(相談員など)を配置する施設もあったでしょうが、この担当を「内部調整」も含めた組織体制として機能させることがポイントとなります。
つまり、特定の担当者を配置するだけでなく、新たな部署とそれを動かすための組織の再編が必要になります。単純に「渉外担当者を増やせばいい」という話ではないわけです。
協力医療機関連携加算未算定でも問題は同じ
この組織再編は、施設系で2027年度から完全義務化される運営基準でも同様です。
たとえば、施設等の求めに応じて診療を行なう体制を常時確保できるかどうかについては、医療機関側も医師・看護師不足で働き方改革などを推進している中、「いざという時のケース」をある程度想定することが必要です。つまり、連携する施設等での容態悪化リスクがどうなっているかなど、やはり日常的な情報共有の機会が求められるわけです。
言い換えれば、協力医療機関連携加算の要件にある「定期の会議」までは行かなくても、「定期の情報交換の場」が一定程度必要です。結局は、加算算定の有無にかかわらず、同レベルの組織づくりが求められます。
こうして見ると、先の(加算算定しない理由の)調査で強調される「負担の重さ」という回答の中には、(組織再編を要する分)これまでと「負担のレベルが違う」という意味合いが含まれていると考えなければなりません。
これに対し、先の「自治体による後押し」は、どちらかと言うと、「従来の渉外環境」のレベルを前提としたものと言えます。その点で、実効性には疑問符がつきがちです。
組織再編に必要なコストを勘案しているか
考えてみれば、国が打ち出す科学的介護による自立支援策や生産性向上策でも、「その対応のための人員確保」を「個人としての担当レベル」でとらえている感があります。
たとえば、新たなテクノロジー導入を図るうえで、「機器の導入コスト」+「導入環境をマネジメントできる担当者の人件費」だけで加算単位を算出していないでしょうか。つまり、「組織再編に必要な運営コスト」という発想が足りていない可能性があるわけです。
先に述べたように、特に「先に述べた組織的な渉外業務」となれば、従来型の組織とは別枠の体制を見すえなければなりません。
「利用者の高齢化で持病の悪化リスクに手をこまねいてはいられない」という懸念は確かにあります。しかし、既存の体制を前提に負荷をかけても、かえってリスクへの対応体制が揺らぎかねません。せめて、2026年度の診療報酬改定で、医療機関側に新たなインセンティブが設けられるまで。あるいは、物価上昇等で苦境に陥る施設等の運営が安定するまでは、基準の経過措置を延長したり、加算要件の緩和を図るべきではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。