
通信機能を備えた福祉用具について、介護保険の給付範囲の見直しが行われようとしています。これまでも、福祉用具の給付のあり方はたびたび見直されてきましたが、今回は今まで以上に大きな転機となるかもしれません。今回の見直し内容を整理しつつ、その先に待ち受ける状況にも目を凝らしてみましょう。
今見直し内容を改めて整理。焦点は2つ
今回の見直しの焦点は、大きく2つに分けられます。1つは、認知症老人徘徊感知機器について「居宅外の通信機能を備えた場合」も給付の対象とすること(現行は、通信機能の部分が区分できる場合に、本体だけ給付の対象となる)。もう1つは、福祉用具の位置情報を家族に知らせたり、福祉用具の維持管理等にかかる情報を(その福祉用具から)利用者や家族、福祉用具専門相談員等の通知するものも給付対象とすることです。
後者については、「福祉用具の位置情報」としていますが、その通信機能が認知症老人徘徊感知機器(以下、感知機器)に備えられている場合、実質的に認知症高齢者の位置情報を家族に通知するGPSが給付対象となります(ただし、感知機器に附属しないGPS発信機を新たに追加するものではない)。
これまで同感知機器は認知症高齢者が「家から出る」ことの感知のみを対象とし、「外に出てしまった後」の早期発見に資するGPS機能は(本体と分離したうえで)給付外とされていました。GPS端末については、民間サービスでの廉価なレンタルのほか、多くの自治体でも貸出しが行われています。ここに、介護給付の対象拡大が加われば、さらに普及が促進される期待も高まるでしょう。
厚労省の思い切った踏み込みの背景とは?
いずれにせよ、今回は厚労省の思い切った踏み込みが目立ちます。そこには昨今の技術進化のほか、いくつかの背景がありそうです。
技術進化については、機器の小型化・軽量化や(IoT技術の進化等による)GPS機能との一体化などが当たり前となり、開発・製造コストも大幅に下がっています。現行の「本体と通信機器との区分」に合わせる構造の方がコストはかかりがちという指摘もあり、介護保険財政の拠出対効果の面でも、今回の見直しは必然だったと言えるでしょう。
それ以外の背景としては、たとえば、家族が離れて暮らす独居の認知症高齢者や家族の就業により日中独居となる人の増加があげられます。国としては、介護休業法の改正等に見られるように、特にビジネスケアラーの支援強化を図っています。具体策として、「介護者が家にいない間」の遠隔対応の支援も重要となり、通信機能にかかる給付拡大が施策課題となるのは、やはり必然の流れでしょう。
介護情報基盤や認知症基本法施行も要因か
さらに、2026年度から本格運用が始まる介護情報基盤において、今後もさまざまなデータの利活用が継続的に議論されるのが確実という点です。今回、福祉用具の利用状況を通知するための通信機能も給付対象となりましたが、目的はあくまで事業者によるメンテナンス機会の把握等が想定されています。
ただし、通信機能によって使用状況データの蓄積も可能となれば、そのデータを誰がどう管理するかという議論も進むことになります。介護情報基盤を通じた国によるデータ管理もいずれ視野に入ってくるかもしれません。
もちろん、一足飛びにそこまで議論が拡大するのはまだ先となりそうです。ただし、LIFEデータなどが施設系・居住系・通所系に限定されがちな中、在宅で収集できるデータ範囲の拡大が施策課題に入るとなれば、現時点で福祉用具にかかる通信機能の位置づけを明確にしておくことは一つの布石と言えます。
さらに、認知症高齢者が携帯するGPS端末で言えば、昨年施行された認知症基本法にもとづく推進基本計画で、「認知症の人が安全・安心・スムーズに外出・帰宅」できるためのバリアフリー推進を定めています。こうした事情も後押しの1つと考えられます。
将来的に、さらなる大改革が行われる予兆も
こうしたさまざまな背景が垣間見える中、今回の福祉用具の見直しが、将来的にどのような方向に広がると予想されるでしょうか。
今回「給付対象外となる機能例」に明記されているものに「利用者の状態変化・体調不良等を通知する機能(バイタルセンシングによる検知等)」があります。これは、施設・居住系等の生産性向上策におけるテクノロジー装備の一環として加算評価も行われています。
もちろん、現行の在宅での福祉用具にかかる給付目的に「現場の生産性向上」は想定されていません。しかし、たとえば先の「2040年に向けたサービス提供体制のあり方検討会」の取りまとめでは、「訪問先の利用者の福祉用具貸与も(居宅従事者等の)負担軽減の観点から活用していくべき」としています。
こうした状況下で、福祉用具にかかる給付範囲の位置づけが、近い将来「利用者の自立支援と家族の負担軽減」にとどまらない方向で拡大される可能性はありそうです。今回あえて「給付対象外の機能例」として明記されたのも、逆に考えれば、市場ニーズの方向性が大きく変わりつつあることが意識されているという意味合いもありそうです。
2027年度とは行かないまでも、2030年度には福祉用具にかかる給付のあり方が劇的に変わる予兆があることに注意したいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。