
介護情報基盤とケアプランデータ連携システムが統合されることになりました。2023年の法改正で介護情報基盤の整備が制度化され、その時点から示されてきたビジョンですが、いよいよ実現へ踏み出したことになります。
データ連携システムの普及率は依然1桁台
介護情報基盤自体の稼働は2026年度からですが、自治体によるデータ連携が「2025年度末までは困難」とする回答が7割近くに及びます。そこで、2026年度からはデータ連携が完了した市町村より順次情報共有を開始。そのうえで、全市町村でデータ連携を完了しつつ、活用を図る時期を2028年度とするスケジュール案が示されました。
介護情報基盤とケアプランデータ連携システムの統合も、このスケジュール案に則って進められることになります。両者の統合により、事業所としてはデータ連携を一元的に運用・管理することが可能となります。
ただし、ここで現状を整理する必要があるでしょう。2025年3月時点で、ケアプランデータ連携システムの事業所利用率は7.2%にとどまります。もちろん、ライセンス利用料を1年間無料とするキャンペーンが6月から開始され、その影響が注視されるところです。とはいえ、Ⅱ区分の算定要件へと組み込まれてもなお1桁台ですから、普及率の劇的な向上を見込むのは難しいかもしれません。
システム統合の先行きはどうなるか?
そうした中での今回の統合方針ですが、両システムとも、現場のケアマネジメント業務の効率化が期待されています。統合で双方の「入口」が一元化されれば、普及率・活用率を相乗的に高められる期待もあるでしょう。
問題は、今回の統合をともなう両システムの活用が、現場にとって「地に足をついたもの」になるかという点です。先に述べたように、ケアプランデータ連携システムの事業所普及率は1桁台。要因はいろいろあるでしょうが、新システムを現場に浸透させるだけの行動変容が追いつかない面もありそうです。
同様の状況は、介護情報基盤の浸透でも予測されます。確かに活用が浸透すれば、ケアマネジメント実務の効率化に向けては大きな効果が期待されます。しかし、ここでも現場が日々展開している実務フローとのすり合わせには時間がかかることが想定されます。
理屈だけで行動変容はなかなか進まない?
ケアマネの実人数が2人以下という事業所が半分近くを占める中で、「むしろ小規模の方が業務の変容は容易いのでは」と思う人もいるかもしれません。しかし、小規模であるほど、たとえば「チームで動く」ことを前提として確立された業務上のノウハウよりも、「特定の個人が長年築いてきた」という属人的なやり方が支配的となりがちです。
ケアプランデータの連携も、手持ちや郵送とまでは行かなくても、長年地域で使ってきたシステムをそのまま使うことが個人の業務フローに沁みついている場合もあるでしょう。そうなると、余程のことがない限り、あえてルーチンを変える意識は生じにくくなります。
そもそも「業務効率化」の実感が生じるのは、変革後のルーチンが稼働し、それが新たな業務のやり方として浸透してからのことです。なぜなら、ケアマネには1日の流れの中でさまざまな業務が連なり、1つの業務が(効率化を含めて)変わった場合、その前後の業務にも微調整が必要になるからです。
1つの業務が効率化されれば、空いた時間を他の業務にあてることができるから、全体としてケアマネジメントが充実する──理屈はそうですが、個人のケアマネが築き上げてきた業務のやり方を、「新たな世界」に転換させるのは、そう簡単ではありません。
システム進化に対するケアマネの信頼が重要
やはり、個人の行動変容を触発するだけの動機付けが、そこには必要です。資力が十分ある大規模組織であれば、トップダウンで変容を促しつつ賃金査定にも反映させることで、改革を進めることはできるかもしれません。
しかし、特にケアマネ1人あたりの経験年数が他職種より長いという特質がある中では、属人的な業務の中に「変革への動機づけ」を図ることは並大抵ではありません。
この動機づけを具体化するなら、ケアプランデータ連携システムを活用した場合の「(取扱い件数の上限引き上げではなく)基本報酬の単価引き上げ」の検討も必要でしょう。これならば、自身の業務ルーチンを変えてでも活用に踏み切る意識は高まるはずです。
このことは、介護情報基盤の活用でも、同じではないでしょうか。要介護認定情報の入手効率化などの期待は高まるとしても、ケアマネ個人の行動変容を図るには、「そこに報酬上のインセンティブがあるのかどうか」が最終的には問われることになりそうです。
国は、介護保険をめぐる諸システムの高度化・効率化に力を入れ、普及の旗振りを続けてきました。しかし、それを現場で「使う」のはケアマネ個人であり、その行動変容を促さなければ地に足のついた改革は伴いません。
そもそも、その間にケアマネの処遇改善にほとんど着手されてきませんでした。そのため、ケアマネ側の施策への信頼は醸成されず、それが今の課題を生じさせてはいないでしょうか。システム統合までには、まだ時間があります。その間に「どうすれば現場で使う人が、システムへの信頼をもって動いてくれるか」をもう一度掘り下げるべきでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。