ケアマネ不在では保険外施策も回らない。 その四半世紀の実績を評価した処遇改善を

日本介護支援専門員協会が実施したケアマネの賃上げを求める署名は、7月3日時点で24万筆以上が集まっています。ケアマネの従事者数が(居宅以外も含めて)約18万3000人なので、現場従事者以外の署名も含まれていると言えます。この署名に実効性を持たせるにはどのようなビジョンが必要でしょうか。

ケアマネ不足がもたらす保険内外への影響

ケアマネ従事者数は、2018年度以降減少傾向にあります。一方、要介護・要支援認定者数は、2018年度から現在に至るまでに約67万人の増加ですから、早晩「担当できるケアマネが見つからない」というケースが急増することは容易に想像できるでしょう。

そうなれば、行政や包括がケアマネ調整に追われる状況は目に見えています。行政も包括も、包括的支援に向けた資源開発・調整が課せられる時代となっていますが、「それどころではなくなる」という事態も生じるでしょう。国がかかげる地域共生社会の実現も、絵に描いた餅になることは避けられません。

このように、ケアマネジメント上のニーズと供給のアンバランスは、介護保険制度が機能しないだけでなく、地域住民の総合的な健康・福祉にも深刻な影響を与えることになります。今回の賃上げ署名が現場従事者以外にも広がっているのは、「ケアマネがいなくなれば地域生活そのものが成り立たなくなる」という危機感の現れかもしれません。

その点を考えた時、今回の署名を国に提示する際には、「ケアマネが不足すれば、国が進めようとしている施策が広範囲でマヒする」という主張も必要になってくるでしょう。

ここで、今年6月に示されたデータを2つ紹介します。1つは、厚労省が示した2024年度の「歯科疾患実態調査」。もう1つは、総務省が示した「(災害時における)個別避難計画等にかかる取組み状況の調査結果」です。

高齢者の「残歯」が急速に改善したのはなぜ?

まず前者ですが、これは国民の歯科保健にかかる状況を調査したものです(調査時期は2024年10~11月)。それによれば、80歳で20本以上の歯が残っている人(いわゆる「8020達成者」)の割合は61.5%。前回2022年度調査から約10ポイント上昇しています。

また、過去1年間に歯科検診・健診を受けた人の割合は63.8%で、こちらも前回調査から5ポイント以上上昇しています。こちらは全年齢共通のデータですが、前回調査との間の差異を詳細に見てみると、特に70歳以上の男性で大きな伸びが目立ちます。

こうした高齢者の歯科保健にかかる状況改善は、地域の歯科医師や歯科衛生士の取組みの成果であることは言うまでもありません。一方で、在宅の要介護者等への歯科衛生への啓発や歯科診療への「つなぎ」という点では、ケアマネからのアドバイスや受診勧奨も相当程度寄与していることも考えられます。

2022~2024年度と言えば、適切なケアマネジメント手法の浸透や歯科医療機関等との連携も強化された時期です。こうした点からのケアマネの下支えは無視できないでしょう。

個別避難計画にかかるケアマネの取組み評価

もう1つの「個別避難計画等の取組み状況」ですが、未策定の団体数が2024年4月から2025年4月の1年間で3分の1に減少しました。要介護者など、避難行動要支援者への支援体制が急速に進んだことがうかがえます。

ここで言う「団体」とは、自治会や町内会などが想定されます。ちなみに、こうした団体の取組みについて、今調査結果では「本人のことをよく知るケアマネ等の福祉専門職や地域の関係者の協力を得て、ていねいに取り組まれている」という評価が付されました。

どこまで直接的な関係があるかどうかは不明ですが、2024年度からは介護現場における災害時等のBCP等の策定が義務づけられています。特に居宅介護支援に関しては、利用者の生活状況をよく知る立場として、個別避難計画に資する情報が策定されたBCPから反映されるケースも多いと思われます。

総務省の指摘通り、ケアマネ側の多大な協力があってこそという面は大きいでしょう。

過去の実績評価+未来への投資の両方が必要

もちろん、上記の2データだけでは、多様な施策に関するケアマネの寄与を正確に把握するのは困難です。しかし、現場からさまざまな事例を集積し掘り下げれば、この四半世紀でのケアマネの実績は明瞭になるでしょう。

日本介護支援専門協会としても、今回の署名を国に提示する際には、上記のような実績データを付与したいものです。介護保険制度上の成果だけでなく、多岐にわたる国の施策にケアマネの力量が反映されていること、そして「それが失われること」による弊害が明らかになれば、インパクトは大きいでしょう。

もちろん、こうしたケアマネの労力には、法定外業務のグレーゾーンに差し掛かっているものも少なくありません。このあたりの明確な仕分けは当然ですが、同時にケアマネが広範囲の地域福祉に果たしてきた「それまでの実績」を賃金に反映させることは必要です。

処遇改善をはじめとする報酬上の上乗せというと、国が求める実務へのインセンティブという位置づけが中心となりがちです。そうではなく、長年ケアマネが果たしてきた社会的使命にかかる実績もきちんと反映すべきでしょう。過去を適切に評価し、そのうえで未来への期待に投資する──このバランスこそが、ケアマネの処遇改善の軸といえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。