
今年も、介護労働安定センターによる介護労働実態調査の結果が公表されました。今調査は、2024年度改定から半年後の10月に実施されたものです。今改定が、介護現場の働き方にどのような影響を与えたのか。調査結果からうかがえる状況を掘り起こします。
採用率・離職率ともに低下でうかがえること
まず注目したいのは、対前年度比での採用率の低下(2種合計で▲2.6ポイント)です。ここ数年採用率はわずかながら上昇傾向にありましたが、ここへ来て一転下落しました。
気になるのは、採用活動の実施状況で「特に行なっていない」が1割に達したことです。これは前年度から2ポイント増。変動はわずかですが、前年度は採用率が2ポイント以上高かった点を考えると、「採用状況が厳しくなっている」にもかかわらず、「行なっていない」の割合が増えたことに注意が必要です。
背景として、離職率が2005年度以降で最低(12.4%)になったこととの関係も考えられます。つまり、「新規採用を望むのは難しい(有料職業紹介などを活用した場合のコストもかかる)」ゆえに、今いる職員に「働き続けてもらうこと(職場定着)」に労力とコストを集中させる傾向が強まっているともいえます。
「職場定着に効果あり」の方策とは?
では、「職場定着」に関して、具体的にどのような方策が採られているのでしょうか。
「職場定着に効果があった」という割合が高い方策の上位5つは、以下のようになっています。
A.有給休暇等の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり(34.4%)
B.賃金水準の向上(30.9%)
C.人間関係が良好な職場づくり(29.5%)
D.本人の希望や人間関係などに配慮した配置・異動(23.6%)
E.仕事と育児や介護との両立支援(20.2%)です。
前年度調査とは選択肢の内容が微妙に異なったり統合されたりしているものがあり、一概に比較するのは難しいですが注目点はあります。
1つは、B.の賃金水準の向上が大幅に伸びていること。これは、2024年度改定で処遇改善加算の上乗せが行われたことも影響しているでしょう。ただし、トップではないという点で、職場定着の「決め手」としては不十分さも浮かびます。加算だけでは足りない部分を「事業者の持ち出し」でしのぐ例もある中では、その限界がうかがえるとも言えます。
むしろ、トップとなっているA.や、対前年度から急伸しているD.のような、職員希望に応えるシフト調整や適材適所の人員配置など、労務管理面に力を注ぐことに手応えを感じる傾向が強いのかもしれません。見方を変えれば、賃金水準の向上に限界を感じることで、いかに「職員ファースト」を叶えるかに苦慮する状況が浮かんでいるわけです。
コミュニケーションより有給休暇取得の推進
もう1つの注目点は、「仕事上のコミュニケーションの円滑化(面談、ミーティング、意見交換会など)」を「効果的」とする割合が、対前年度から大きく減って上位5つから脱落していることです。ただし、職員側から見た「職場定着」に役立っている取組みとして「コミュニケーションの円滑化」への注目度は高く、「賃金水準の向上」を上回っています。
この事業者側と職員側の認識差は、どこから来ているのでしょうか。あくまで推測ですが、基準上や加算要件上の管理業務が増える中で、職員への個別面談やミーティング運営の負担が大きくなっているのかもしれません。
つまり、管理業務にかかる「労力およびコスト(管理者の人件費等)対効果」を見すえた時、職員に有給休暇等をしっかり取らせたり、職員の希望に応じた勤務日時の柔軟な調整に力を集中させた方が有効である──という事業者側の思考がうかがえます。
もっとも、こうした労務管理のあり方については、職員側も「職場定着に役立っている」と考える割合も少なくはありません。実際、「コミュニケーションの円滑化」に期待する声は大きいものの、それを上回っています。
先に「職員ファースト」と述べました。そのあり方が、事業者側の「管理業務の選択と集中」方針のもと、「職場でのコミュニケーション円滑化」よりも「仕事とプライベートの両立支援の労務管理」に移り、職員側も一定程度支持している様子が見て取れるわけです。
職員の増減率低下によって生じがちな「犠牲」
有給休暇等の取得は労働者の権利です。また、本人の希望に応じたシフト調整なども仕事とプライベートの両立という点で、事業者にとって重要な責務です。これらは、労働力減少の時代こそますます問われてきます。
ただし、こうした方策について、事業規模を維持しつつ実現するとなれば、サービスに支障をきたさないレベルの十分な人員が必要です。ところが、今調査では、採用率の低下にともなって職員の増減率も低下しています。
この状態が続く中で「有給休暇をしっかり取ってもらう」などの「職員ファースト」を維持しようとするなら、いずれは、利用者の受入れを制限する動きも加速しかねません。
これは、国の推進する生産性向上策で乗り越えられるレベルなのでしょうか。今調査結果から「職員の働き方改革が進んでいる」という分析がなされたとして、その影で「利用者および現場の管理者」が被りやすいデメリットは膨らんでいないでしょうか。真の「職員ファースト」を実現するうえで、議論すべき課題はまだまだ尽きないと言えます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。