今のままでは対医療連携も機能不全に。 地域医療の危機が招く、介護へのダメージ

介護事業所の経営状況が、危機的状況にあるのは周知の通りです。同様に注意する必要があるのは、地域の医療機関も厳しい状況に追い込まれていることです。対医療連携の環境も損なわれかねず、介護現場にとっては利用者の健康維持が厳しさを増す恐れもあります。

各種調査から浮かぶ、地域医療崩壊の兆し

今年7月に東京商工リサーチが公表した「病院・クリニック」の倒産状況によれば、2025年上半期(1~6月)の倒産は21件で前年同時期から16.6%増となっています。これは1989年以降で2番目の多さです。

負債総額も伸びていて、小規模の開業医だけでなく、地域の中核となる病院も倒産に追い込まれる状況が強まっています。たとえば、前年同時期では0だった「従業員300人以上」の病院の倒産も、2件発生しています。

また、全国自治体病院協議会が8月6日に公表した「会員病院の令和6(2024)年度決算状況調査の結果」では、経常損失による赤字病院の割合は86%にのぼります。医業に特化した赤字割合になると95%と、運営継続に向けて極めて厳しい数字となっています。

背景には、コロナ禍での融資の返済に加え、昨今の物価上昇による医療物資等をめぐるコスト増の影響があるのは言うまでもありません。また、介護分野と同じく、必要な人員を確保するうえでの人件費コストが大きな負担になっている状況も指摘されます。

地域医療の崩壊が介護現場におよぼす影響

このまま地域の病院経営が全国規模で悪化していけば、介護現場の利用者の容態急変などが生じた場合、入院等の受入れが困難になるケースも増えかねません。

今夏は熱中症に加え、新型コロナ感染も拡大しています。重症化リスクが上昇し、受け皿となる医療資源が足りなくなれば、要介護者の死亡例なども急増する恐れがあります。

重度化の際の受け皿問題だけではありません。利用者の重度化を防ぐうえでは、介護現場における平時の健康管理も重要です。その際には、日常的な対医療連携も不可欠となります。地域で医療機関との間の平時の協力関係の構築が困難になれば、介護現場での重度化防止の取組みも困難になり、現場の緊張度は一気に高まりかねません。

また、地域の医療資源の揺らぎは、認知症ケアのあり方にも大きな影響をおよぼします。ご存じの通り、認知症のBPSD悪化要因には持病の悪化も含まれます。また、認知症の原因疾患が専門医によって適切に診断されていない場合、本人の穏やかな暮らしに向けたケアも試行錯誤を繰り返しやすくなります。

いずれにしても、介護現場の従事者負担は増え、離職の誘発にもつながります。利用者の急速な重症化やBPSDの悪化にともなう事故により、入院期間の長期化や最悪の場合死亡に至るとなれば、サービスの停止・終了による事業所・施設の経営悪化も進むでしょう。

ある日、協力医療機関がなくなるとしたら…

こうした状況を防ぐために、国としても運営基準や報酬上の加算を通じて、介護現場の対医療連携の強化を進めてきました。しかしながら、連携する相手が「いなくなってしまう」となれば、国が進めようとする施策も機能しなくなるのは明らかです。

ちなみに、2024年度改定では、介護施設等が連携する「協力医療機関」の必要な対応が明記されました。また、利用者の病状等にかかる、「協力医療機関」との平時からの情報共有を評価する加算も誕生しています。感染症対策で、地域の医療機関等の協力による研修機会の確保にかかる加算も設けられています。

極端な話ですが、たとえば上記の基準上で定めている協力医療機関が「閉鎖」となった場合、2027年度からの完全義務化が満たせなくなるケースも想定されます。それまで収益に計上されていた加算が「取得できない」という事業所・施設も出てくるでしょう。

そうした事例が生じた場合、国として何らかの救済措置(基準の完全義務化の延長等含む)を取れるのか。今後の介護給付費分科会の議論等でも、「地域の医療機関閉鎖」を想定した論点が浮上するかもしれません。

2026年度の診療報酬改定は介護側も注目

もちろん、地域の医療資源が危機に瀕している状況は、介護サービスの利用者に限らず、すべての地域住民にとって大きな問題です。とはいえ、「重症化リスクが特に高い患者が介護現場に集中している」、「介護事業者の経営悪化や現場負担の増加で、地域の介護資源が共倒れする危険がある」という点では、特に緊急性の高い課題なのは間違いないでしょう。

となれば、すでに進んでいる2026年度の診療報酬改定の議論は、介護現場にとっても今まで以上に無関心ではいられません。

たとえば、入院基本料や外来診療料などのベースとなる報酬はどこまで引き上げられるか。介護現場との連携が特に重視される入退院支援の評価に、上乗せはあるか。また、病院から介護施設等への往診や看護師派遣について、コストに見合う評価はなされるか──これらは介護業界も注目すべき論点でしょう。

2026年度は、介護報酬側の期中改定が行われる見通しも囁かれています。基本報酬や処遇改善加算の上乗せに限定される可能性もありますが、仮にも診療報酬側との同時改定となれば、対医療連携の評価にも手が入ることが考えられます。そうした点も含め、介護・診療両報酬の動向の両にらみが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。